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プレ・ラーリオス

夜明けのレクイエム(2−1)


 
2ー1章 リメルガ&ロイド

 じわりと涙とともに、目が覚めた。
 どうして自分が泣いているのか、よく分からなかった。
 何か大切なものを失ったような、何か大事なことを忘れ去ったような、そんなもどかしい気分で、ぼくはその朝をむかえた。
 ぼんやりした頭で、悪夢の記憶を呼び起こそうとする。

 宵闇の世界にて。
 月明かりがスーザンの顔を照らし出していた。
 「ごめんなさい……私は選ばれたの」
 スーザンの言葉が、はっきりよみがえってくる。
 「そして、あなたもよ。ラーリオス」

 「ぼくはぼくだ」悪夢を振り払うかのように、つぶやく。「アナキンでも、ラーリオスでもない!」
 セリフの内容に一瞬、既視感(デジャブ)めいたものを覚えたけれど、そう口にしたことで、パズルのピースが合ったような気がした。
 アナキン……って、スター・ウォーズかよ。つまり、よく覚えていない昨夜の夢は、大好きなSF映画の内容だったんだ。
 そのように納得してから、ため息をつく。
 自分と、好きな娘を、映画の悲劇のヒーローとヒロインになぞらえるなんて、センチメンタルもいいところだ。ハードボイルドに憧れる男としては、あまりに女々しくて苦笑いがこみ上げてくる。
 不可解な夢よりも、現実に目を向けないと。
 現実……。
 硬くて窮屈なはずだったベッドは、ふかふかでなじみがない。
 ここは、どこだろう?
 まだ、夢の続きを見ているような気分にさいなまれる。思わず、頬をつねってから、これが現実であることをかろうじて認識する。
 ジルファー、カレンさん、バァトス、そしてソラーク。昨夜、出会った人たちと、会話の内容がいろいろ思い出されてきた。
 ああ、ゾディアックにまつわる話は夢じゃなかったんだな。
 記憶の整理を終えて、落ち着いてから、ようやく体を動かす。
 何だか全身が痛い。
 激しい運動をした後にも似た筋肉の痛み。
 いや、逆か。
 夢の中のアクションで、筋肉痛になったりはしないだろう。
 むしろ、ずっと運動不足の状態だったから、筋肉がこわばっている? 
 そうだろうな。
 フットボールで鍛えた体は、多少の運動程度じゃへこたれない。体を動かすことなく、頭ばっかり動かしたりするものだから、精神的な疲労感がたまっているんだろう。

「うはぁああああ!」憂さをはらうように、あくび混じりの大声を上げながら、大きくのびをする。それから、肩の筋肉をほぐすつもりで、軽く握った拳でポンポンと叩き、さらに両手で頬をペシャペシャはたく。
 これで、目覚めの儀式は完了。
 後は、顔を洗ったり、歯を磨いたり、寝癖で乱れた髪を整えたり、服を着替えたりできればいいんだけど。
 周囲を見回しても、昨日と同じ殺風景な部屋で、鏡だって見当たらない。部屋に欲しい物はいっぱいある。どこまで要求がかなえられるかは分からないけど、言うだけ言ってみよう。
 ぼくが願うものなら、全ては現実になるだろう。
 だって、ぼくは選ばれし者、ラーリオスだから。
 そう思い切ると、自分の周りの世界をしっかり受け止められた気持ちになった。

 さて、ラーリオス様は、何を望むのかな?
 他人事のように考えてみる。その方が、冷静に自分を分析できる。
 まずは、のどがからからだ、と気付く。
 何しろ、砂漠を歩いた夢の後だ。そうした気分だけでも、渇きがこみ上げてくる。
 小机の上には、期待していたとおり、グラスが置いてあった。昨日、ジルファーが、星輝士の力で作った物だ。確か、氷でできたグラスだったはずだけど、まだ溶けずに残っているのが、ちょっとした不思議だ。
 手にとってみると、やはり冷たく、湿っている。溶けているのじゃなくて、部屋の中の水蒸気が凝結して、水滴になったのだろう。
 昨夜、飲み干したはずのグラスの中にも、少し水がたまっていた。
 一気にあおって、のどの渇きをうるおす。冷たくて、心地いい。
「やっぱり、これは現実だよな〜」人心地ついて、ぼくは口にした。「星輝士の力……か。使いこなしたら、便利なんだろうけど」
 自分が神秘的な術を使っている様子を思い浮かべようとした。けれども、どうにも絵にならない。兄貴に付き合わされた、数少ないファンタジーゲームの経験でも、自分の役割は、魔法使いよりも、むしろ怪力を誇る戦士だ。呪文を使うなんて、柄に合わない。
 何となく、手にしたグラスを握りながら、目をつむって、自分が周囲の水蒸気を凍らせている様子をイメージしてみる。
 強く握りすぎたか、あるいは手の平の熱で温められたのだろう。グラスはたちまち砕けるように溶けて、辺りの床を濡らした。
「何をやってるんだ?」自分の迂闊(うかつ)ぶりに慌てて、濡れた手の平を服でぬぐうと、タオルか雑巾がないかと部屋を見回した。
 そんなもの、あるはずもない。
 部屋に欲しい物のリストに、タオルを付け加える。
 やはり、魔法使いなんて柄じゃないよな。凍らせるつもりが、溶かしてしまうなんて。

 柄じゃないなんて言えば、今、着ている服だって、そうだ。
 一枚布の貫頭衣なんて、装備としても貧弱すぎる。
 デートの時に着ていた黒の革ジャンと、厚手のジーンズはどうなったんだ。
 ラーリオス様は、お召し物を所望している。
 そう考えてみると、頭の中で、豪華な宮廷衣装と、派手なマントと、絢爛(けんらん)な王冠を身に付けた自分の姿がイメージされた。あまりに似合わない扮装なので、慌てて頭の中から消し去る。
 自分はどうも、中世ファンタジーの住人にはなれそうもない。
 もしも、そうなることを求められたら……動物の毛皮をまとって、棍棒を持っている野蛮人の方がお似合いだ。
 ラーリオス様は、国王や帝王よりも、辺境の部族の長なのだろう。角付き兜とか、顔に塗りつけた隈取りとか……北欧の海賊とか、アイルランドとか、インディアンとか、いろいろなイメージがごちゃ混ぜに浮かび上がる。
 専門の歴史学者や民俗学者から見れば、ツッコミどころ満載の姿だろう。ぼくの頭の中の想像を絵にしろと言われたら……イラストレーターはあまりの混沌ぶりに困惑するだろうな。
 もっとイメージしやすいのは、やはりSF映画だ。夢の中のジェダイは、どんな衣装だったかな。砂漠を旅するためのマントと、銃やライトセーバーを入れるためのガンベルトとかホルスターとか、いろいろな小道具に彩られたスタイリッシュな衣装。そういう洒落たセンスでコーディネートされた姿の自分を思い浮かべると、何だか心地いい。
 この時ばかりは、映画の登場人物に仮装したがるナードの気持ちが分かったような気がした。

 ガンガンガン。
 扉を乱暴にノックする音が、たわいない白昼夢を追いはらった。
「起きてるか!」
 野太い男の声が聞こえてきて、ぼくは飛び上がった。
 あたふたと返事をして部屋を横切ったら、ガチャッと目の前で扉が開いた。かろうじて、ぶつからないように身をかわす。
 そこに立っていたのは……SF映画の殺人サイボーグを髣髴(ほうふつ)とさせる大男だった。
「ぼ、ぼくはジョン・コナーじゃない。抹殺(ターミネイト)しないでくれ!」
 とっさに口走ったセリフに、自己嫌悪に陥る。
 案の定、大男は、「何を言っているんだ?」という視線で、ぼくを見下げていた。トレードマークのサングラスはかけていないところが、映画とは違っている。
 幸い、腰を抜かさずには済んだけれど、相手の巨体には圧倒された。めったにない経験だ。巨漢ぞろいのアメフトチームの中でも、ぼくの体格を凌駕する者はいない。せいぜい匹敵するぐらいだ。まだ成長していない数年前ならともかく、ここ最近、人から物理的に見下げられた覚えはない(心理的にはしょっちゅうだと思うけど)。
また来る(アイル・ビー・バック)、と言えばいいのか」
 男が表情を変えないまま、淡々とそう問い掛けてきた。その声音も、心もち、ボディービルダーやアクション映画俳優出身の元カリフォルニア州知事に似ているような気がする。鍛えられた腹筋からにじみ出るクールな低音(バリトン)
「い、いや……」ぼくはSF映画的妄想を振り払おうと努めながら、現実に対峙した。「ええと、あなたは誰で、ぼくに何の用ですか?」間抜けな質問だと思うが、動揺した頭では、もっとハードボイルドなセリフなんて思いつかない。
「オレはリメルガだ。お前がラー……何ちゃら様とやらか?」
 ラー……何ちゃら様?
「リメルガさん、ラーリオス様ですよ」
 巨漢の後ろから、ピョコンと小柄な少年が飛び出した。小リスのようにチョコチョコと前に出ばってきて、右手を差し出す。
「ラーリオス様、初めまして。ぼくはロイド。シリウスの星輝士です」
「あ、ああ。よろしく」つられて握手を返す。
「おい、犬っころ。出しゃばってるんじゃねえ」リメルガと名乗った大男が、不満そうにうなる。
「だって、リメルガさんに任せておいたら、話がなかなか進まないじゃないですか」
「お前に任せると、話が現実から訳の分からない方向にそれて行くんだよ」
 突然、口論を始める2人。何だか、もう訳の分からない方向にそれかけているんですけど。少なくとも、ぼくには。
「とにかく、犬っころ、お前は黙っていろ。ラー……何ちゃら様、ええい、まどろっこしい。よし、リオだ、これで行くぞ」
「リオ?」ぼくは呆然とつぶやいた。
「そうだ、オレはお前をリオと呼ぶ。何せ、その頭だ。ライオンの頭のようにボサボサだろう」
 ぼくは思わず、頭を押さえた。鏡は見ていないけど、寝癖でひどいことは分かっている。でも……。「何で、ライオンでリオ?」
「ラー……リオスだから、略してリオ。問題ないだろう」
「いや、それ、答えになってませんよ」ロイドが、リメルガにツッコミを入れる。「何で、ライオンでリオかって聞かれているんです」
「そこまでオレに言わせる気か?」リメルガはうんざりしたように言った。「お前の好きな日本のアニメだよ。とっさにひらめいたんだ。悪かったな」
「アニメでリオ……リオ・ナツキですか? 声優の。女性ですよ?」
「そんなんじゃねえ」リメルガは話が通じない苛立ちを声音ににじませた。「もっと世界的にメジャーな作品だ。オサム・テヅカだよ。『ジャングル大帝』ってあったろうが。白いライオンの出てくるやつ。あれに出てくるライオンの小僧の名前が、リオだったろう?」
「……それはレオです」
「どっちでもいい」リメルガは憮然と言った。「とにかく、もうリオで決まったんだ」
 いつの間にか、決まったらしい。
 リメルガとロイドの話のペースに、ぼくはまったく付いて行けていなかった。口をはさむ余地もない。
「リオか……」ロイドは少し考えて、何かを思いついたように、にんまりした。「別に、それでもいいか。では、改めて、よろしく、リオ様。『猛きこと獅子のごとく』で、お願いします」
 いや、お願いしますって言われても、ちっとも訳分からないし。
 昨日のジルファーたちの会話は、聞いているうちに、まだ内容を推測することができた。多少、非現実すぎて受け入れにくいこともあったけど、少なくとも、ぼくに理解しやすいように説明はしてくれた。
 でも、この2人の会話は、こちらの理解とは程遠い世界で展開されている。
 ただ、2つだけははっきり分かった。
 リメルガは勝手に人を自分の決めた名前で呼ぶし、ロイドはアニメなどの非現実好きなナードだってことが。

 この2人のペースに巻き込まれずに、自分を保つためには、どうすればいいんだろう?


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●作者余談(2012年1月11日、ネタバレ注意)

 現実と虚構の混迷、これが本作のテーマの一つでもあります。
 ついでに、光と闇の交錯するストーリーというのも目標でした。

 カートという主人公自身、基本設定が「光輝く花形アメフト部」に所属して、タフヒーローの属性を十分備えているにも関わらず、「その中心ではなく目立たない影」にいて、コンプレックスを抱えている基本設定。
 家でも、光は彼ではなく、「優秀なコンピューター技術者の兄貴」に当たっていて、カート自身はマッチョ信仰の強そうなアメリカ人には珍しく、期待されていない。

 そんな現実世界では満たされない人物が、虚構の世界で「ラーリオス様」と持ち上げられながら、才能を発揮する願望実現型ファンタジーというのが、本作の基本構造。
 でも、それでめでたしめでたし、という話にはしないのが、作者のひねくれている部分なんですけど、「第2部」は割とそういう路線でまとめることができたな、と思っています。

 で、現実と虚構、ということで、それを象徴するのが、本章で登場したリメルガ&ロイドです。
 なお、真実と虚偽、という組み合わせが、ジルファーとカレンだったりしますが、この辺は第3部の余談にて、いずれ。

 ともあれ、リメルガは「カートの理想のハードボイルド」という形で、登場させています。カートがジョン・コナーなら、シュワちゃんのターミネーターですし。
 そんなキャラを登場させるのだから、第2部はもう、ハリウッド映画の引用を解禁して、自分の好きな物を描くことに徹しました。

 そして、好きな物といえば、ロイド(笑)。
 ロイドがいろいろネタ発言して、リメルガが黙らせる……という段取りで、ネタを知っている人ならロイドに親和感を、知らない人にはブレーキ役のリメルガに共感を抱いてもらえるだろうという、作者の計算が。
 また、カート自身、リメルガ寄りなので、ロイドに喋らせたい作者との間でうまく綱引きをとれば、作品としてのバランスはとれるな、と。

 ただし、この辺のバランス感覚が、うまく機能しない章もあったりして、明らかに暴走したのが第6章「エクストラ・エクササイズ」。
 そこでの余談は、いろいろと解説しないといけないなあ、と思いつつ。
 執筆当時は、暴走成分を削って、普通に熱血格闘ストーリーとして読める、「ショートバージョン」も描いたりしましたが、それじゃ物足りない、「オリジナルバージョン」の方がいい、という意見も得られたりして、なかなか参考になったなあ、と記憶。

 で、そんなNOVAのヒーロー好き、ロボット好き属性を刺激して、いろいろ暴走しかねないネタを振ってくれるロイドの登場で、基本は陰鬱なストーリーがだいぶ和らいだ、と考えるのですがね。
 暗くなっても、ロイドがいれば安心、と作者は考えております。
 ま、そんなロイドも第4部で死んじゃうけれど、愛があれば大丈夫、ロイドの魂は永遠です……なんてアピールしてみる。

 後は、この章で初めて、「リオ」という呼称が登場。
 このネタは、「獣拳戦隊ゲキレンジャー」(2007年放送)の敵役・黒獅子リオが元なんですけど、自分はリオ様に仕える悪の女拳士「自称ラブ・ウォリアー」のメレに相当ハマッてました。彼女が、主君に愛情をこめて「リオ様」と呼ぶんですね。
 だから、「ラーリオス」を略して「リオ」と呼ばせるんですけど、人の名前を普通に言おうとしないリメルガなら、そういう略し方をするだろうな、とか、でもリメルガはゲキレンジャーなんて見ないだろうから、もっと一般的に知られる『ジャングル大帝』のレオを、勘違いしてリオとか、いろいろこじつけてます。

 で、最終的に、「カレンさんに、リオ様と呼ばせる」のが目標だったりしますが、その前段階で、ロイドに「リオ様」と呼ばせてますね。ロイドなら、ネタも分かってるし。
 なお、本編中にロイドの言った「猛きこと獅子のごとく」というセリフも、黒獅子リオの名乗り文句ですね。

 そして、自分のラーリオスのアニマルイメージは、「ライオンとドラゴンの合わさった姿」です。そして、まず、カートにライオンの自己イメージを持たせるために、リメルガに語らせてもいるんですが、とりあえず、数少ないカートの外見描写として、「寝癖で、ライオンのたてがみのようにボサボサになるぐらいの髪の長さ」ということは確定、と。

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