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プレ・ラーリオス

夜明けのレクイエム(2−4)
 

2ー4章 ブレイク・ファスト

「さすがはラーリオス様。豪快な食べっぷりですな」
 さっき別れた影の神官バァトスが、前の夜に口にしていた感想だ。
 でも、その言葉は即刻、返上したい気分になる。
 目の前の巨漢の食べっぷりを見た後では。

 リメルガは、ステーキをナイフで切りもしなかった。
 ガッとフォークで突き刺すと、大口を開けて半分ほどを噛み千切る。
 まさに飢えた野獣の如し。
 口の端から肉汁がポタポタ落ちるのを(ぬぐ)いもせずに、次の獲物を求めて、視線を走らせる。千切れたステーキを一度、皿に戻すと、今度は大きな手でスープの皿をわしづかみにし、スプーンも使わずにゴクゴクと飲み干す。
 もはや、マナーがどうこうといった問題ではなかった。
 ぼくの食べ方が教養にうとい田舎者のそれなら、リメルガのはそもそも文明とは無縁の未開人。コナン・ザ・グレートもかくや、と思わせた。手づかみじゃないだけマシ、と言ってもフォローになるのか、ならないのか。
「ん? どうした、リオ。食べないのか?」リメルガは、もう半分のステーキを口に放り込みながら、もぐもぐと言った。食べながらも、どういうことか発音は明瞭。ちょっとした特技っぽい。
 ぼくは食べながらだと、うまく喋れない。おまけに、周りの動きに気が散ると、食べることもままならない。一度にできることは一つだけ。人からはどちらかと言えば、不器用と見なされがちだ。
 だから、その場で返事しようと、右手のナイフを置いて口を開いたのが、命取りだった。
「食べないなら、オレがもらうぞ」
 そう宣言するや、巨漢の腕がグッと伸び、手にしたフォークで、ぼくの肉をグサッと突き刺した。ぼくは思わず悲鳴を上げたけれど、リメルガは気にすることなく、ポタポタと血のしたたる肉めがけて、牙をむき出しにした恐ろしい顔を近づけた。
 そのまま、むさぼり食う姿は、スプラッター映画の怪物そっくりだ。
 ぼくは、あまりの惨状にハアハアと息をあえがせ、涙のにじんだ目で化け物をにらみつけた。
「その肉……今から食べようと……思っていたのに」あまりのショックに、それだけ言うのが精一杯だった。
「何だ? 食べたいなら、さっさと食べれば良かったんだ。いいか、戦場では常に油断するな。奪いたい物はすかさず奪い、守りたい物は命に代えても守り抜く。敵に奪われてから、嘆いても後の祭りだぞ」ぼくの肉を口にほおばりながら、そんな説教を口にする巨漢の戦士。
「……ここは戦場じゃない」数瞬考えてから、ぼくは力なく抗議した。
「甘いな」リメルガは悪びれることなく、そう言ってのける。「男がいる場所は常に戦場に変わる。覚悟しておけ」
 どうやら抗議を受け付ける気はないらしい。
 ぼくはため息をついて、気を紛らわせるべく、周囲を見渡した。
 右隣でのんびり食べているロイドの皿が目についた。とっさにフォークをつかんで、まだ手を付けていないステーキに突き刺し、リメルガを見習って、一気にむさぼりつく。
 小柄な少年の悲鳴が響き渡った。
「弱肉強食」リメルガが哲学者風にそっとつぶやいた。「弱い者の肉は、強い者に食べられる運命にある」

「リオ様、ひどいですよ〜。せっかく最後の楽しみにとっておいたのに〜」
 しくしくと泣きながら、恨めしそうに言うロイドの抗議を、
「……ここは……もぐもぐ……戦場……ごくっ……らしいから」
 ぼくは何とか肉を噛みしめて、のみこみながら、リメルガの言葉を使って受け流した。
「それは分かっていたんだ。だから、リメルガさんの動きは警戒していたんですよ。正面から来たら、いつでも肉を守る準備はできていたのに〜」
 その泣き言からすると、リメルガがロイドの皿に手を出したことは前にもあったんだろう。たぶん、一度だけじゃなく。
「でも、まさか、横から肉を奪われるなんて思わなかった。初対面の相手に、そんな礼儀をわきまえない人だったなんて……」不満そうに言うロイド。
 悪かったな。礼儀を知らない田舎者で。
 それでも、リメルガは満足そうだ。「リオは理解が早いみたいだからな」
 どうやら、戦場の流儀にはかなっているらしい。
「悪いことを教えないで下さい。食事くらい、のんびりくつろいで食べたいですよ〜」
「甘ったれるな。味方でも、下手に信用しすぎていると、いつ足を引っ張られたり、裏切られたりするか分からないんだ。周囲の動きには常に気を配り、臨機応変の対処ができるように備える。前にも教えたはずだぞ」
 リメルガが、ぼやくロイドに説教しているのを聞きながら、ぼくは何とか気を取り直して、自分の食事を素早くとり終えた。
 さてと……。
 すかさず正面に手を伸ばして、リメルガのデザートのプリンを奪い取ろうとした……が、大きな掌がしっかりガードする。
 一瞬、ぼくは巨漢をにらみつけたが、向こうは強面(こわもて)にニヤリと笑みを浮かべた。
「このオレから、食後の楽しみを奪おうなんざ、十年(はえ)え」
 こんな凄惨な会食の場に、ジルファーが来たのは、その時だった。

「遅かったな。紫トカゲ」ぼくから守ったプリンを一口で飲み込んでから、リメルガは言った。
「誰のせいだと思っている」ジルファーは端正な顔立ちをかすかに曇らせた。「神官殿に、部下の星輝士の教育がなってない、と散々、文句とイヤミを言われたんだからな」
「オレは、あんたの部下になった覚えはないぜ」
「私も選べるものなら、君のような扱いにくい部下は持ちたくなかった」
「だったら、持たなければいい」リメルガは傲然と言い放った。「いいか。オレの役目は、リオのお守りだ。戦士の心得と技を教えて、鍛え上げる。そして、リオは気に入った。《太陽の星輝士》とか、そんな肩書きとは関係なしに、こいつにならオレの経験を伝えてもいいと思っている。だが、紫トカゲ、あんたに従うわけじゃない。あんたもリオの教育係だがな、役目としてはオレと対等のはずだ」
 ジルファーは大げさに肩をすくめてから、ぼくの左側の席に腰を下ろした。悠然と腕組みしてから、氷のような目で、まっすぐ巨漢を見据える。
「いいか、ハヌマーン。私は別に、君に敬意を示せ、と言っているわけではない。私と君とでは、性格も生き方も違いすぎる。相性としても、決して良くはないのだろう。今すぐ、手を取って仲良くできるとは期待していない。ただ一つだけ言いたいのは、組織の役割上の立場は崩して欲しくない、ということだ。立場上、私は上位の星輝士であり、君たち下位の者の管理を期待されている。同じ教育係としての役目にしても、そのカリキュラムを作り、神官殿とのややこしい折衝なんかを行うのも、私の仕事なんだ。できるものならば、こちらの仕事を増やすようなマネはしてほしくない。それだけだ」
「ああ、ごちゃごちゃうるさい」リメルガは、氷の視線をまっすぐ受け止めた。その目は野獣のような物騒な光を放っている。「まず、ハヌマーンなんて気取った呼び名はよしてくれ。『神の化身の白猿』なんて大そうな称号を名乗るつもりなんざ、これっぽちもねえ。オレみたいな奴は、ゴリラで十分だ」
「ゴリラ?」ジルファーは怪訝(けげん)な表情をした。
「ああ、強くて、賢くて、タフな類人猿。マウンテン・ゴリラ、略してMG。オレの称号は、それにしておけ」
「そんな勝手な。書類には、ハヌマーンと登録されているんだぞ」
「書類なんざ、あんたの手で書き換えておけ。それができるなら、部下になってやってもいいぞ」
「……聞いていた以上に横柄な奴だな」ジルファーは苦笑いを浮かべながらも、鷹揚(おうよう)にうなずいてみせた。「いいだろう、MG。書類には、そう記しておこう」
「ヘッ、話が分かるじゃねえか。見直したぜ、紫トカゲ」
「ちょっと待て」すかさず、ジルファーが口をはさんだ。「呼称の件なら、私も言いたいことがある。どうして、紫トカゲなんだ?」
 確かに。それがずっと気になっていたけど、今まで聞けずにいた。
「そんなの決まっているじゃないか」リメルガは、さも当たり前のことを説明するように言った。「あんたが転装した姿を見たことがある。ありゃ、誰が見ても、紫トカゲだ」
 転装? ええと、紫色の鱗鎧を着た姿か?
「トカゲは不本意だ。せめて、紫の龍にしてくれ」ジルファーが、そう抗議すると、
「それって、最強の拳と最強の楯を持った戦士ですか?」唐突にロイドが、口をはさんだ。それまで黙々と食事を続けていたのが、ようやく食べ終わったんだろう。でも、相変わらず、訳が分からないことを言う。
「最強の楯? ランツのことか?」ジルファーが、また、ぼくの知らない名を出した。何とか話に付いていこうと黙って聞いているけど、そろそろ限界に近い。
「だったら、最強の拳はオレだな」リメルガがそう言ってから、ジルファーに注意をうながした。「おい、紫の。そのガキの言うことは、あまり真剣に受け止めない方がいいぜ。大方、何かのマンガかアニメの話題でも、口に出しているんだろうよ」
「マンガかアニメじゃなくて、どっちもです」ロイドが反論したけど、何だかポイントがズレているような。「ええと、あなたたち、星輝士なのに知らないんですか? ぼくなんて、星輝士の話を初めて聞いたとき、すぐに、あのマンガのことを連想しましたよ。流星拳とか、昇龍覇とか、有名じゃないですか」
「なるほど」ジルファーは納得した表情で、ぼくの方を見た。「君の言っていたナードというのは、彼のような人のことを言うのかな」
 ぼくは大きくうなずいた。すると、
「ナードだって? そんな失礼なことを言うな!」ロイドが席から立ち上がって、猛然と怒り出した。その勢いに、ぼくは思わずゴメンと謝る。確かに、ナード呼ばわりされて、あまり嬉しい者はいない。
 しかし、次のロイドの言葉は、思いもかけないものだった。
「ぼくは、ナードなんて、その辺にいっぱいいるような連中とは違う。ぼくを呼ぶなら、もっと極めた称号OTAKU(オタク)と呼んでほしいな」
 そう言った少年の表情は、妙に誇らしげだった。
 一瞬の沈黙の後、ジルファーが考え深げに言った。「オタクか。確か、日本語起源の言葉だったな。サブカルチャーに特化して、達人級の知識や技術を修得した者のことをそう呼ぶんじゃなかったかな」
「そうです。その通りです」我が意を得たり、といった様子で、ロイドはうんうんと何度もうなずいて見せた。「ナードは、ただの趣味をかじっただけの連中なんです。オタクは違う。一種の求道者と言ってもいい。ぼくは、そう呼んでほしいんですよ」
「なるほど。それじゃ、書類にはそう記しておこう。君の呼称はシリウス、改めオタクか」
「い、いや、それはやめてください」ロイドは慌てた。「星輝士の称号は、シリウスでいいんです。いくら何でも、オタクの星輝士って変でしょう?」

 話がかなりおかしな方向にそれていると思ったので、ぼくはようやく、自分の聞きたいことを口にすることにした。
「あのう、称号の話をしたいわけじゃなかったと思うんだけど。ぼくは、ラーリオスでも、略してリオでも、どっちでもいいし、ジルファーはリメルガと口論したくて、ここに来たんじゃないでしょ?」
「そうだな」ジルファーは、ロイドに、続いてリメルガに目線を送った。「シリウス、君のマンガの話は機会を改めてくれ。ハヌマ……いや、MG。不満はあるかもしれないが、神官どのを挑発するのはやめてくれ。転送円を管理しているのは、彼だ。本気で怒らせたら、食事の材料にも困ることになる」
「……それは考えてもいなかったな。うかつだった」
 どうやら、リメルガをおとなしくさせるには、食べ物で縛るのが効果的なようだ。考えてみれば、これだけの体だ。維持するだけでも、常人の倍はいるだろう。もっとも、ぼくも人のことは言えないけれど。 
「バァトスのところへ行ったのは、これを受け取るためだ」ジルファーは、そう言うと、スーツの懐から一つの首飾りを取り出した。鎖の輪っかの先端に、指輪サイズの水晶が付けられている。琥珀(こはく)めいた色合いで、決して派手ではないけれど、精巧な造りをしている。
「これは?」ぼくの問いに、
「星輝石だ」ジルファーがそう答えて、さらに説明を続けた。
「星王神の加護の力が凝縮・結晶化されたもので、ゾディアックの星輝士や神官の力の源になる。もっとも、これは神官たちの修業に用いる練習用の欠片(かけら)みたいなものだけどね。まずは、これを使って、力の引き出し方を練習してもらう」
 そう言って、ジルファーは首飾りを、ぼくに手渡そうとした。
 ぼくは、その魔法めいた石におそるおそる左手を差し出した。
 そして受け取った瞬間、神々しい光が放たれ、思わず目を閉じる。
 石を持つ手がカーッと熱くなり、心臓から全身の血にかけて、激しく脈動するようなうずきを覚える。耳の奥で鼓膜が震え、額とこめかみに鋭い痛みが走る。自分の意識がどこか遠い世界に飛ばされるような、奇妙な浮遊感。
「いかん、手を離すんだ」誰かの声が聞こえたが、石を持つ手の感覚は、電気ショックを受けたように痺れ、自分の思うようにはならなかった。
 そのとき、グイッと左手が引っ張られ、強引に首飾りが引き()がされた。
 急に、静けさが(よみが)ってきて、意識と体の感覚が元に戻った。目を開けると、ぼくを除く3人の男は、みんな席から立ち上がり、こちらを不安そうに見つめている。
「……一体、何をした?」静かに、ジルファーが問い掛けてきた。見ると、彼の右手に星輝石の首飾りが握りしめられている。
「何って、ぼくが聞きたいですよ」足元がふらつくのを感じながら、テーブルに右手を当てて、何とか立ち上がる。「何が起こったんですか?」
「光だ」リメルガが、呆けたようにつぶやいた。そんなことは、ぼくも分かっている。
「力の波動……いや、小宇宙(コスモ)の爆発、かな?」ロイドが相変わらず、分かったような、分からないようなことを口にする。何だよ、小宇宙って?
「《気》だな」ジルファーがつぶやいた。「もう少しで、制御できない力が暴走するところだった。この小さな欠片で、あれほどの《気》が一気に生み出されたケースは珍しい」
「それって、つまり、どういうことだ?」ぼくの疑問を、リメルガが代わりに口にしてくれた。
「……力の引き出し方を一から教える必要はなくなったわけだ」ジルファーはそう答えて、目を細めた。「これじゃ、カリキュラムを練り直さないといけないな。初心者相手に教えるのとは、勝手が違う」
「結構なことじゃねえか」そう応じるリメルガ。「教えなくても、自分の足で歩ける赤ん坊か。だったら、後は、走り方や、ジャンプや、いろいろ教えていけばいいってことだ。手間が省ける」
「リオ様、すごいじゃないですか」無邪気に喜ぶロイド。「まさに天賦(てんぷ)の才ってところですよ」
 こちらは、それほど気楽にはなれない。
「そう単純に考えていいものかどうか」ジルファーだけがぼくの不安を理解してくれたのか、(あご)に手を当てて、思慮深げな面持ちになる。「MG、君は破壊力の強すぎる弾丸をどう思う?」
「大歓迎……」そう言いかけてから、リメルガはかぶりを振った。「いや、銃の強度と、持ち手の技量次第だな。下手したら、銃身が破裂して自滅する」
「その危険は大いにある」ジルファーはうなずいた。「使い手が、力をコントロールできなければ、強すぎる力で身を滅ぼす元になる。どんなに優れた才能でも、使い方を誤れば、災いをも引き起こすんだ」
 何だか物騒な会話に、ぼくはいたたまれない気持ちになった。
「ぼくに才能だって? バカな。《気》なんて知らないし、いきなり使えるはずもない。たまたま、石の方に力がたまっていたんじゃないですか? それが、ちょっと触ったら、噴き出してきただけで……」
 そう、納得できるだけの理由を半ばこじつけ気味に言いながら、ぼくは今朝、起きて、すぐの出来事を思い出した。
 ジルファーが《気》の力で作った氷のグラス。同じように、周囲の水蒸気を凍らせてみようとしたら、あっさり溶けてしまった。
「ぼくに才能なんて、ないですよ。氷のグラスだって、溶けるんだし」
「何の話だ?」ジルファーが問い掛けてきたので、ぼくはそのことを説明した。
 すると、氷の星輝士は深刻な面持ちで、ゆっくりと語った。
「いいか? 私の作った氷は、めったに溶けることはないんだ。確かに、時間が経てば、自然の法則で、少しぐらいは溶けることもあるだろう。しかし、人の手で温めたからといって、そう簡単に溶けたりはしない。私が固めた《気》が残留したままなんだからね。ガラスは高温で溶けるが、普通に置いておいても溶けないだろう? 固まった物(ファスト)溶かし崩す(ブレイク)には、それと同等の逆作用の力が必要となる。私の《気》を無効化するには、それだけの《気》を生み出さないといけないんだ」
 何も言えないぼくに対して、ジルファーは最後に、付け加えた。
「君はそんな高度な《気》の操作を、星輝石の助けも借りずに、そして誰からも教えられずに成し遂げたんだよ、ラーリオス」


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●作者余談(2012年1月13日、ネタバレ注意)

 リメルガ&ロイドとの対面、そして「失った夢」の記憶という仕込みを完了して、
 ここから本格的に、カートが《気》の技を習得する訓練を開始することになります。

 タイトルの「ブレイク・ファスト」は、朝食(ブレックファスト)と、「固いもの(ファスト)を溶かし崩す(ブレイク)」のダブルミーニング。
 こういう語呂合わせは、いろいろ考えるのが楽しいですので、この辺りから積極的に採用しています。
 いや、元々は第2部のインターミッション「ハリウッズ・ナイトメア」を、第4部(本来は第3部を予定)のインターミッション「ホーリーウッズ・ナイトメア」に絡めるところから、あれこれ考えるようになっていたんですけどね。
 そして、ここで考えた「ブレイク」というキーワードが、後のサミィの歌「ブレイク・ザ・デスティニー」に発展していくというのも、一応のトピック。
 いや、まあ、この章を書いた時点では、そこまで狙っていたわけではないですけど。

 ただ、「ブレイク」(破壊、崩す、突き破る)というキーワードは、「世界の破壊者」「破壊神」とかぶって、後の暴走ラーリオスの伏線にもなるだろうし、とか、何となく考えてはいました。
 他には、「ブレイクする」という日本語表現は、「予期せずに流行する。思わぬヒットを果たす」的な意味もあって、自分的には、この章を書く辺りから、『レクイエム』という作品に積極的な評価を与えてもらったなあ、という印象があります。

 タイミング的には、第1部が「2009年4月〜7月」に書いて、続いて第2部が「09年9月〜11月」で第3章まで書いたものの、そこで仕事の都合で一時中断。
 2010年3月から再開したのが本章ということになります。
 少し期間は空いたので、初期プロットにいろいろ仕込みを加える余裕はありました。

 第2部は、ハリウッドアクション映画の要素を解禁することからスタートしましたが、後にそれ以外のホラー映画、スプラッター映画の要素も混ぜ始めています。
 まあ、カートのキャラクターには合わないのですけど、暴走ラーリオスの魔物のイメージを付与する際にも、やっぱりイメージ源は欲しかった。
 それに、スーザンの元ネタの一つが女吸血鬼にもあったので、そこをもう少し、「カートが闇に惹かれる部分を持っている」ことを明示しながら、つなげていけたらなあ、とは思いました。
 問題は、そういう「ややグロ」な要素を作品に投入するに当たって、どこまで許容範囲かを確認するために、「スプラッター風味の食事シーン」をコミカルに描く形で試した次第。

 巨漢の腕がグッと伸び、手にしたフォークで、ぼくの肉をグサッと突き刺した。ぼくは思わず悲鳴を上げたけれど、リメルガは気にすることなく、ポタポタと血のしたたる肉めがけて、牙をむき出しにした恐ろしい顔を近づけた。

 もう、ここだけ切り取って読むと、リメルガが「ホラー映画の魔物」以外の何者でもないです(笑)。
 もちろん、星輝士の持つ獣性の伏線とか、いろいろ説明もできるのですけど、
 「描写は恐ろしいのに、シチュエーション的に笑える」という80年代スプラッターのノリを文章で表現できないかなあ、という意図もあります。

 それにしても、肉を食べながら、戦場哲学を語りだすリメルガが、自分で書いていても楽しかったです。
 そして、プリン。
「このオレから、食後の楽しみを奪おうなんざ、十年早え」

 何を格好付けてるんだ、リメルガさん、とツッコミ入れたくなりますが、まあ、カートがこのプリンを奪えるようになれば、成長を描写できるな、と予感しました。

 そこにジルファー登場。
 ジルファーと、リメルガ&ロイドのやりとりを、カートが観察する場面。
 これは、これで、書いていて楽しかったですね。
 カートの内面描写だと、どうしても話が暗くなるので、カート以外のキャラの絡みを積極的に書くことで(話は進まないけど)、筆はノる、と。
 しかも、こういう会話シーンは、相手の発言を受けて、このキャラならどう返すか、とか戦闘シーンの攻防を考えているのと同じくらい、いろいろ建設的に頭が活性化します。
 もちろん、1対1なら、どちらかが優勢になったりすると面白くないので、ロイドみたいに混ぜっ返すキャラがいて、一種の混沌状態な空間が発生。
 自分でも書いていて、話がどこまで転がるのか、とか、ここまでネタ振っていいのかな? とか思いつつ、ロイドはそういうキャラだしなあ、と自己弁護。

 「ぼくはナードじゃなくて、オタクだ」とか、
 「マンガかアニメじゃなくて、どっちもです」とか、何にこだわってるんだ、お前はよ、と書いていて言いたくなりました。いや、まあ、自己ツッコミにかなり近いんですけどね(苦笑)。

 そして、そのロイド発言を、いちいち真面目に受け止めるジルファー。
「オタクか。確か、日本語起源の言葉だったな。サブカルチャーに特化して、達人級の知識や技術を修得した者のことをそう呼ぶんじゃなかったかな」
 ジルファー先生、オタクをすごく持ち上げております(笑)。
 後の、ロイドを称して「知恵者」と呼んだり、もしも彼が生き残っていれば、「オタクジャンルの優秀な研究者」に転向してしまうのではないか、という懸念も。
 ま、ジルファー先生のこういう評価は、主人公のカートやリメルガが基本的に「オタク否定発言」をしてしまうキャラなので、作者的にバランスをとるため、でもあるのですが。ジルファー先生が学術的な視点で、サブカルチャーを評価するなら、それが作者の見解にも通じる、と受け止めていただければ、と。

 でも、リメルガが「ハヌマーンをMGに変更するように要望」したことを受けて、ロイドに対して「シリウス、改めオタクの星輝士と書類に記しておこう」というのは、どこまでボケますか、先生、と。
 本章までのジルファーは、「クールで嫌味だけど、真面目な教師」で通してきたのに、リメルガ&ロイドと絡めた途端、「天然ボケ」な部分が浮き彫りにされて、いっぺんに親しみやすいキャラになったな、と自分で評価します。

 これで、キャラ小説としては十分な手ごたえがつかめたので、話を進めるために、カートを動かします。
 基本的に、本作はカートが動けば話が展開します。その点は主人公の面目躍如ですね。
 そして、カートが星輝石と接触して、暴走の危険を明示して、なごやかな雰囲気が一転。「覚醒編」としては、ここから一気に本筋に入っていく、と。
 他の人が触っても、それほど反応しないアイテムが、主人公が触れると「異常に活性化」するってのは、いかにも「運命に選ばれた者」って感じで、物語の典型と言えます。
 ただ、カートの凄さは、「太陽の石」に触れたわけではなく、「練習用の欠片」、つまり星輝士にとっては、ごくごくつまらない物品でも、「ありえない力を引き出してしまう」ということにあります。
 この辺は、「凄いアイテムを持っているから、凄い奴」という風にはしたくなかった。「ありふれたつまらない物でも、思わぬ力を引き出す可能性」の方を描写したかったわけですね。
 それでも、カートは自分の可能性が信じられず、むしろ自分は大したことない、と言います。

 そこで、「ジルファーのように凍らせようとして、失敗して溶かしてしまった」発言。
 この「溶かすという芸当が、それだけで凄いんだ」という視点の変化を受けて、ここからカートが自分の力を探る展開。
 なお、当初の構想では、「カートは炎の力が得意なので、凍らせずに溶かしてしまうのも必然」と単純に考えておりました。後の展開を考えても、ライゼルとの炎の対決や、暴走ラーリオスの描写など、炎つながりが必然的にあります。
 けれども、そんな単純なことでいいのか? と自問した結果、カートの基本設定(いろいろな物を失い、否定する主人公)という原点に立ち返って、「《気》を消去する力」を発想。そして、この後は、消去のための条件付けとか、いかにしてカートがそれに気付くか、とか、そういう段取りをあれこれ考えた結果、第2部として、うまくまとまった、と思います。

 結果的に、消去するためには、一度、自分の体に受け入れないとダメ、という前提条件を付与して、カートはいろいろな物を受け入れる能力にも長けている、という形に発展。これを食べ物と絡めることができたのは、僥倖だと思います。
 「食べ物のように貪欲に受け入れる→体内で消化、あるいは自己の能力として吸収→ひいては邪霊の怨念さえも受け入れて浄化する可能性も……」というようにラーリオスとしての能力設定を考えております。浄化や昇華するためには、まず受け入れないと……というのがカートのスタンスということで、作品の方向性も、こういう設定とつながった。
 そこまで見えたのが本章ということで、一つの大きな転機だったと考えております。

PS.ロイドのネタ解説を忘れていたので、追記。
 星輝士から連想するマンガということで、元ネタの『聖闘士星矢』の話題を振るロイド。作者としても、臆面なさ過ぎ、と思いましたけど、その辺はロイドだから仕方ない(笑)。
 いや、まあ、キャラのせいにするのではなく、作者の立場としては、原作をアピールして、パロディ要素を明示しつつ、元ネタと通じる部分、そして違う部分をしっかり描こうと思いました。
 ジルファーが「紫トカゲではなく、紫の龍にしてくれ」と言うと、ロイドが『星矢』に登場する龍星座の聖闘士・紫龍のことに言及。彼は「最強の拳と楯(その割にはしょっちゅう壊される)」を持つキャラなんですけど、そのキーワードから、今度は「本作の最強の拳リメルガ」「本作の最強の楯ランツ」の名前を出して、あくまでパクリではなく、個々の要素を抽出して再構成していることをアピール。元ネタはあっても、かなり手は加えていますよ、ということです。
 もし、これで、ジルファーが中国拳法を技にして、アッパーカットを必殺技にしたり、あるいは氷の技ということで白鳥座設定にすれば、パクリなんでしょうけど、「氷の龍だけど、紫トカゲと揶揄される学者キャラ」という時点で、個性化は果たせた、と考えます。

 さらに、《気》の暴走を見て、小宇宙(コスモ)の爆発と言ってしまうロイドも、どこまで『星矢』ネタを振るか、というツッコミが入りますが、実のところ、星矢の小宇宙の概念も、自分に縁の深い仏教思想だったりしますね。ギリシャ神話と言いつつ、星矢の世界はシャカというキャラを除いても、仏教との親和性は相当高いです。
 だから、マンガパクリではなく、マンガが元にしている題材にまで遡って、しっかり勉強して、自分なりのイメージを再構築しているのだから、OKと主張してみます。

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