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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(12)


 
12.戦いの決断
 いつしか、東の空が白みかけていた。
 東天の星々が淡い光に飲まれて姿を消し行き、西天の星々も輝きを減らしつつある。
 月は雪山の影に沈みこみ、太陽もいまだ姿を見せようとしない。
 闇と光がぼんやりと混じり合う混沌(カオス)
 夜から朝に移行する、どちらつかずの曖昧な空気が、《峰》の周囲に漂っていた。
 ソラークは目を閉じて、これからの戦いの勝利を、まだ山の向こうに浮かんでいるであろう満月に祈っていた。
 これから昇り来る太陽に祈るわけにはいかない。
 何しろ、倒すべき敵は、その太陽の名を冠する魔神なのだから。

「兄貴……」と言いかけて、ランツはつぶやいた。「いや、もう、そう呼ぶわけにはいかないか」しんみりと告げる。「これからカレンに告白するはずだったのによ。どうして、こんなことに……
 我ながら女々しいことを言っているな、と思いながら、右腕の武器――二本の刃を、拾った石で磨く手は休めない。本格的な戦闘を前にした、ちょっとした儀式だ。砥石(といし)のように動かすことで、地の《気》の加護を刃に伝えることができる。それによって、硬度と切れ味を高めるのだ。リメルガの話を信じるなら、今度の敵には、本気でかからないと生き残れない。
「力を操るには、やはり精神性が必要ということだ」(さと)すようにソラークは言った。「ラーリオスに選ばれた少年は、石の強大な力を受け入れることができなかったのだろう」
 その口ぶりが、あまりに淡々としていて、再びランツはカッとなった。
「そんな……奴が、どうして神子に選ばれたんだよ!」作業の手を止めると、今まで椅子代わりに腰掛けていた装甲板から、身を起こして立ち上がった。「永遠の平和をもたらす、神の後継者じゃなかったのか?」そう、問い詰める。
「予言書によれば、な」ソラークは答えながら、星輝士たちの指導者であるバハムートの言葉を思い出していた。
 神子の感じる痛みを共に味わい、
 尊い命の犠牲を乗り越えてこそ、
 その身は聖別され、神の力にふさわしい精神性をも獲得する、か。
 しかし、守るべき神子自らが荒れ狂い、星輝士の命を犠牲にする、などとは聞いていなかった。
 この件が無事に解決すれば、バハムートに問い(ただ)さねばならんな。
 そう、先のことを考えてから、頭を振って思考を切り替える。
 今の課題は、どうすれば生き残ることができるか、だ。
 すでに、妹とジルファー、二人の上位星輝士が命を落としている。自分とランツの二人がかりでも絶対に勝てる保証はない。
「負け(いくさ)になるかもしれんぞ」と、ランツに声をかける。「逃げ出す気はないのか?」
「傭兵だったら逃げるさ」怒りを静めて再び腰を下ろしたランツは、あっさりと答えた。「そもそも、傭兵は金にならん戦いはしない。金をもらえば戦うが、それよりも命の方が大切だ」
「だったら、どうして今、逃げようとしない?」ソラークは、ランツの気持ちを確認するように尋ねた。
「これは傭兵の仕事じゃないからな。個人的な復讐だ。そんなこと、わざわざ聞かなくても分かるだろう? 他人の戦いなら、ヤバくなったら逃げ出せるが、自分の戦いからは逃げ出すわけにはいかない。そういうことさ」
 その答えに、ソラークは納得した。ランツには名誉や大義といった価値観はないが、人を(だま)すための嘘は言わない。この戦いでは、限りなく信用できる友といって間違いない。
「お前はどうなんだ?」逆にランツの方から問い掛けてきた。「確かに、これは妹の仇討ちだが、星輝士としての使命感には違背しないのか? 堅物のお前のことだから、土壇場(どたんば)になって、やっぱり『ラーリオス様を手に掛けるわけにはいかない』なんて言わないだろうな? 守るべき《太陽の星輝士》を倒すなんて、裏切り行為もいいところだぜ」
 その問いに対して、ソラークは迷いなく答えた。「裏切ったのは我々ではない。ラーリオスの方だ!」
「なるほど、立派な解釈だぜ」ランツは皮肉げにそう言いながらも、どこか温かみのある同意の笑みを見せた。「だったら、遠慮なくぶちのめすとするか。そろそろ奴が出てくるぜ、準備しろよ」

 先ほどから、ランツは、地面に接していた腰掛けの六脚パーツで洞穴内部を探っていた。
 地の《気》の探索能力をそちらに向ければ、地底の様子も感じ取ることができる。
 強い炎の《気》が自らを閉じ込めた瓦礫(がれき)を突き崩し、闇の世界から外の銀世界にゆっくりと歩みを運んでくる様子も、手に取るように分かっていた。
「輝面転装!」砥石(といし)を捨てたランツは、先に戦闘態勢に入った。その顔は甲殻類のそれではなく、ハサミを模した二本角の仮面に変わった。見ようによっては、大顎(おおあご)を持つ甲虫類の一種にも見える。星輝石の形作る姿は、動物を模していることが多いが、さすがに、そこには転装者本人の美意識も影響する。その頭部が明らかに人間とかけ離れた生き物の場合、相応のアレンジが施されていたりもするのだ。
 相棒の合図の声を受けて、ソラークも鳥面に転装する。
 それから、さらに星輝石と風の《気》の両方に念を込めた。
「星輝武装! レイ・ヴェルク」
 大気中の元素が彼の右手に収束し、青い光と風が渦巻きながら、一本の長槍(ランス)を形成する。これが、鳥人星輝士の最強の武器《竜巻槍》(レイ・ヴェルク)だ。振り回すだけで風を自在に操り、嵐を巻き起こし、一陣の疾風(かぜ)となって相手を貫き通す。
 愛用の武器を握りしめると、風使いの星輝士はバサッと翼を広げて、宙に舞い上がった。
 穂先が天空の星の光を反射して、ギラリと輝いた。


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●作者NOVAの余談

 この章には、明確なイメージソースがあります。
 それは、時代劇・必殺シリーズの「アジトでの頼み料分配〜出陣シーン」まで。
 BGMとしては、「のさばる悪を何とする」で始まる仕置人オープニングがふさわしいでしょう。

 この物語を書いた2008年時点では、必殺シリーズは前年のスペシャル版『2007』で一時的に復活していたものの、続編がなく、やや物足りない思いでした。その物足りなさも、自分の久々の創作小説のフレーバーとして込めたりもしたわけです。
 まあ、それが1年後に、レギュラー放送でほぼ毎週、新作が見られるとは幸せですな。

 必殺といえば、仇討ちの物語。
 本作でも、妹の仇を討つために主君に反旗を翻す騎士の物語なのですが、メインイメージが西洋ファンタジーであると共に、ここから先は「必殺」と「ロボットアニメ」へのオマージュ描写が散りばめられています。

 まず、武器の刃を砥石で研ぐランツ。「地の《気》の加護を刃に伝える」なんて、もっともらしいことを書いておりますが、書いている方の頭では、「かんざしを研いでいる秀さん」が明確に見えていました。
 出陣時に、今回の仕事(戦い)について、覚悟を確かめるちょっとした会話をするのも、往年の必殺的。まあ、後期はそれが単に「気の抜けた感想回」になっていたり、2009では仲間意識とは縁遠い「大人気ない罵りあい」になっていたりはするんですが(苦笑)、ここでは互いの見解の相違を認識しつつ、それでも今回の件については仲間意識を確認するシーンとして描きました。
 何だかクライマックスバトルは本気の戦いのみに集中したいので、それ以前にドラマ部分のごたごたには決着をつけようと考えるのが、自分流。

 ランツの輝面転装(マスク装着)は、ビーファイターのジースタッグ(クワガタ)をイメージしました。最初は、ただのカニ以上のイメージは持っていなかったのですが、カニの頭部だと何だか格好悪いかな、と。いや、「仮面ライダーシザース」は悪役としてはキライなデザインではないのですがね。

 ソラークの武器「竜巻槍レイ・ヴェルク」は最初から考えていたのですが、ランツとの小競り合いでは使用せず、ここで初めて登場させることで、彼の本気度の高さを演出しているつもり。

 戦いへの覚悟を表明し、武器を装備して、いよいよ出陣です。
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