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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(14)


 
14.魔神の脅威
 ラーリオスの首が切断されるのを、ソラークは見た。
 胴体から赤黒いマグマのような血潮が吹き出す。
 地面に魔神の頭部がポロリと落ちる。
 一瞬、ソラークは勝利を確信した。が、ホッと息をつきかけたのも(つか)の間、すぐに目を見開く異状が発生した。
「ランツ、危ない!」とっさに叫び声を上げる。

 ソラークの叫びに反応して、ランツは振り返った。
 何か赤い火の玉のような物が飛び込んできて、慌てて右手の刃を振りかざす。火球は(やいば)を粉砕し、また離れていった。
 ランツは離れていく火球の実体を見て、呆然とした。「く、首かよ」
 今さっき切断されたラーリオスの頭部が、炎を上げて襲い掛かってきたのだ。ソラークが声をかけてくれなければ、無防備な背中を焼かれてお(しま)いだったろう。
「首だけで襲い掛かってくるなんて、何て化物だよ」

 ソラークは、レイ・ヴェルクを振りかざして、風の斬撃(ざんげき)を放った。
 ラーリオスの頭部はたやすく切り裂かれ、地面に落ちた。
 油断なく残された敵の胴体を見ると、腹部の星輝石が燃えるように赤く輝いている。そして、左手の緑の石も治癒の効果を発揮しているらしく、激しく光を放っていた。
 その力を受けて、ラーリオスの切断された首元がぐつぐつと泡立ち、じわじわと失った頭部が修復され始めていた。
「もはや、人間とは呼べないな」ソラークは冷静さを保とうと意識しながら、つぶやいた。

「こんな怪物、どうやって倒せって言うんだ?」
 必殺の斬撃でも倒せず、生物の限界を越えた回復力を見せる相手に、ランツは背筋がぞっとなった。
 左手の楯も、背中の装甲もなく、右手の刃も砕かれた今、ほぼ無防備に近い。
(逃げて、態勢を立て直すか? もっと援軍を連れて来てよ)
 そう考えたとき、ラーリオスの体がこちらを向き、右手を振りかざした。胸の石が紫色に明滅すると、ランツの足元がぞくっとした。恐る恐る見下ろすと、氷の《気》が枷となって自分の脚を拘束(こうそく)している。
「ジルファーの奴。とことん嫌味なことしやがって!」
 これで逃げる、という選択肢も封じられた。
 この戦いの初めに、自分が仕掛けたのと同種の技を返されたのを知り、ラーリオスも戦闘の中で学習しているのか? という思いが湧いてくる。
 敵は一見、本能のままに暴れ狂っているように見えて、実は大した戦闘センスの持ち主だったわけだ。
「だったら、オレもそろそろ覚悟を決めるか」観念して、そうつぶやいてみた。
 戦う覚悟ではない。命を掛ける覚悟だ。
 その直後、自分の戦術ミスにも気付いて、ため息が漏れる。一気にとどめを刺すために首を狙ったが、まずは相手の左手を切り離すべきだったのだ。カレンの石さえなければ、異常な回復効果も封じ込めることができたかもしれない。
 頭部を修復しながら悠然(ゆうぜん)と歩いてくるラーリオスをにらみつけ、ランツは自分にできる最後の技を仕掛ける準備に入った。
 腰をかがめて、足元の地面に右手を押し当てる。
 腹部の星輝石に念じて、地の《気》の力を全身に通わせる。
 赤い装甲が、星輝石と同じオレンジの光に包まれるのを意識しながら、右手で土の塊をつかむ。
 (のど)がカラカラに渇いていた。
 どこかで、心臓の鼓動が鳴り響くのが聞こえた。
 右手の土の塊の中に、丸い小石が2つ感じ取られ、拳の中で転がしてみる。
 そして再び立ち上がると、拳の中の小石を強く握りしめた。
 小石がバリバリと砕け、右手に地の《気》の力が行き渡るのを感じる。
 その間に、ラーリオスは至近距離まで近づいてきた。
 最後にランツは、空を見た。星空はいつしか明るんで、日の出が近いことが分かった。
「カレンのことは任せたぜ」ソラークにつぶやいた瞬間、
 炎の拳が腹部の装甲を焼いた。
 《気》の力で高められた防御力のおかげで、即死を(まぬが)れた。
 まだ、行ける! 
 自分の心臓の高鳴りに力づけられ、ランツは相手の胸めがけて、地の《気》の加護を宿した右手を突き出した。
 狙うはジルファーの紫の星輝石。こいつだけでも奪い取って、いまいましい防御手段をなくせば、後はソラークの槍が魔神を貫いてくれるだろう。
 熱気が充満する中、ひんやりとした感触の氷の石をつかみ、一気に引き抜く。波打つ糸のような物がピーンと一直線に伸びるような手応えがあった。
「ジルファー、地獄で会おうぜ!」
 それが最期の言葉だった。奪い取った星輝石を方向を定めずに力いっぱい投げると、ランツの体はボッと灼熱(しゃくねつ)の炎に燃え上がった。

「ランツ……
 眼下で友の体が焼かれるのを見るや、ソラークはすかさず行動に移った。自分でも信じられないほどの怒りに乗って、急降下する。
 もはや戦術がどうこう考えてはいられなかった。
 魔神の体にレイ・ヴェルクを叩きこまなければ、この激情は抑えられない!
 その時、完全に修復されたラーリオスの頭が、こちらを振り向いた。
 表情を持たない仮面の口元が、突然グォッと開き、そこから劫火(ごうか)が放射される。
 天を焦がすような太陽の炎に、左の翼を焼かれ、鳥人戦士(ソラーク)は地上に墜落した。


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●作者NOVAの余談

 前章では、ランツの勝利か? と思わせておいて、本章では、化物ラーリオスの驚異的な回復力のおかげで逆転現象が起こり、ランツ死亡、ソラーク撃墜という窮地に陥ります。
 バトル物としては、こういう一進一退の攻防というのが欠かせないでしょう。
 
 斬り落とした首が飛んで来て、襲い掛かってくるのは、「宇宙刑事ギャバン」の最終回「ドン・ホラーの首」へのオマージュですね。まあ、あの首はあっさり再度の必殺技で撃退されましたが。
 星輝士は基本的に「石によって強化した改造人間」ですが(原理的には、仮面ライダーBLACKやクウガと同じ)、さすがに「首だけになって襲い掛かってくるのは、人間ではなくて化物」ですね。まあ、人間を倒してハッピーエンドというのは後味悪い気もしますが、「化物と化して戻れなくなった人間」なら、倒してやることが慈悲、という考え方で、本作は成り立っています。
 多くのバトルエンターティメント小説でも、戦争が題材で戦う相手が同じ人間なら重くなってしまいがちですが、戦う相手が人と相容れない化物なら、明るく倒せます。でも、時には「化物と思われていたものが同じ知的生物と判明」して深刻な話になったりもするわけですが。ましてや、主人公が化物との間のハーフだったりすれば、基本的に重いトーンになるのは確実。
 本作では、「殺された妹の仇討ち」「殺された想い人の仇討ち」「守ろうと思った女子供を守れずに、心に傷を負った傭兵」などと、暗い要素がてんこ盛りなので、バトルそのものは後腐れなく「巨悪を倒してハッピーエンド」という方向性を意図しました。
 でも、まあ、その巨悪の視点で描く別ストーリーも企画中なわけですが、果てさて。

 さて、ラーリオスの恐ろしさですが、当初は拳で殴るだけの野獣ファイトだったのが、戦闘の最中に星輝石パワーを使いこなすようになっていきます。表面的は野獣に見えて、実は人間の知性を持ち合わせた敵というのは、油断していた相手にとっては恐ろしいですね。
 そんなわけで、《氷の枷》で拘束されたランツは、死を覚悟して、最後の攻撃に出るわけです。
 ここも必殺へのオマージュ描写あり。
 「どこかで、心臓の鼓動が鳴り響くのが聞こえた。右手の土の塊の中に、丸い小石が2つ感じ取られ、拳の中で転がしてみる。そして再び立ち上がると、拳の中の小石を強く握りしめた。小石がバリバリと砕け、右手に地の《気》の力が行き渡るのを感じる」
 この描写、元ネタは「暗闇仕留人」の大吉さんです。心臓つかみの技を持つ彼は、殺しの前に拳の中に2つのクルミを握って、砕くわけですな。地の《気》がどうこうと理屈付けしていますが、まあ、心臓つかみの再現です、ハイ。だから、
 「ランツは相手の胸めがけて、地の《気》の加護を宿した右手を突き出した。(中略)熱気が充満する中、ひんやりとした感触の氷の石をつかみ、一気に引き抜く。波打つ糸のような物がピーンと一直線に伸びるような手応えがあった」という描写につづくのです。
 ちなみに、「波打つ糸のような物がピーンと一直線に伸びる」というのは、心臓つかみの際に表示される心電図のイメージです(笑)。
 なお、ランツの最期を飾るこのシーン。自分としては、もう一人の仕置人「念仏の鉄」の最後の骨外しをもイメージしています。

 そして、ランツの壮絶な最期を見たソラークは、それまでの冷静さ、慎重さをかなぐり捨てて、無謀な突撃を敢行します。しかし、
「天を焦がすような太陽の炎に、左の翼を焼かれ、鳥人は地上に墜落した」
 太陽に近づきすぎたイカロス(ソラークのコードネーム)どおりの結果となるのです。
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