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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(2)


 
2.翼と楯

 
《星近き峰》。
 失われし神代の言葉で、プレクトゥスと発音される地――

 
万年雪におおわれたその山岳に、足を踏み入れる生き物は少ない。高山植物さえ生えぬ高峰であるゆえ、草を()む獣も、その肉を狩る捕食者も、迷い込むことはないからだ。

 そのような地に古えから変わらぬ関心を示して見つめ続けるのは、天に輝く星々だった。その位置は地上からはるかに遠く、たとえ《近き峰》と呼ばれる場所から見上げても、格別に大きく輝いているわけではない。しかし、下界のよどんだ濃密な空気よりも、薄く澄みきったそれを通して降り注ぐ光は、ただただ美しい。
 常なら、星を(おお)い隠しがちな雲も、この高い峰には至らぬため、無数の光点が黒い夜空一面にまたたいている。それら星の光を遮るものがあるとすれば、ただ一つ。より近くに位置し、大きな光を放って周囲を静かに圧倒する月光のみ。
 西天を照らす満ちた月は、ほのかに赤い光を帯びているかのようだった。
 それに対峙し、大いなる光を送る太陽は、東の地の陰に沈みこみ、曙光(しょこう)のかけらさえ示さない。

 星辰の位置模様から推察するに、夜明けは近い。しかし、今の時点では、東天の星の輝きは、かき消されることもないままに、永劫にも近い視線で、二人の戦士の激突を見守っていた。

 赤い鎧の戦士は、左腕を掲げて見せた。
 その手甲には、丸い大きな楯が装着されている。甲殻類のように、ゴツゴツしたトゲが縁部(ふち)に散りばめられた楯。うかつに踏み込むと、楯が回転した際に、四肢を切り刻まれてしまうだろう。
 鉄壁の防御の姿勢を見とった黄金の鳥人戦士は、急降下の勢いを崩さぬまま、楯を持たない方の側面から、後方に回り込もうとする。
 相手の右手には、左手の丸楯とは対照的なひし形の武装が備えられている。これが攻撃態勢に入って展開すると、二本の刃となって、近づいた相手の肉体を骨ごと叩き斬る凶器と化すのだ。
 堅固な防御力の楯と、鋭い破壊力の武装を持ち合わせた戦士。容易ならざる相手であることはすでに分かっている。
 しかし――
 巧みなスピード戦法と、一点突破の貫通力。それこそが鳥人戦士の強みだった。相手が右手の武装をまだ展開しないのを見てとると、急に速度を増して、一気に後方に回り込む。
 そのまま、拳ではなく、蹴りの体勢に移り、風の《気》に乗った勢いで降下する。
 一瞬、翻弄された相手は、慌てて、左に向き直り、楯で防御の姿勢に移る。
 予想どおりの動きに内心、笑みを浮かべた黄金戦士は、かまわず楯を蹴りつけた。
 ガッ。
 衝撃とともに、火花が飛び散る。
 そのまま楯が回転する前に、蹴った反動を利用して、わずかに跳躍してみせた。
 全身に感じる風の《気》が、物理的には困難な動きを、うまく後押ししてくれる。
 フワッと、そこだけ無重力のように漂うと、こちらのゆったりとした動きにつられるように、相手の反応も遅くなる。
 その隙をついて、一転、急加速。
 うまく相手の頭上の死角に入り込み、空中で回し蹴りを放った。
 勢いに乗った鋭い一撃ながら、威力は加減している。
 いまだ獣面にすら変わっていない相手の額冠がはじけ飛び――
 ひとときの戦いは終わった。


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●作者NOVAの余談

 第2章では、2人目の星輝士「ランツ」が登場。
 「最初からクライマックス」とばかりに戦わせております。まあ、本気のバトルではありませんが、それでも星輝士同士のバトルのイメージをつかめる程度には、真剣に。

 ビジュアル主体のアニメや、コミックだと、いかに派手な技を見せるか、あるいは細かい技の応酬を繰り出すかが、ポイントと言えるでしょうが、
 文章主体の小説だと、一つ一つの行動の理論面を描写しつつ、臨場感のあるアクションを示せるか、だと考えます。ただ拳を繰り出して打ち合っているだけの戦いほど、小説で読んでつまらないものはありません。
 書いている作者は、頭の中のコミックやアニメのシーンを連想しながら、「拳死郎はアタタタタと叫びながら、一秒間に百発の拳を放った」などと書いていれば満足でしょうが、そんな中身のない文章では、コミックのインパクトのある絵には到底かないません。同じ書くなら、「拳死郎は何度も拳を繰り出した。一撃一撃が重く、しかも勢いのある連打。拳と共に、口から雄叫びも放たれる。その声量もまた、拳と同様に相手を吹き飛ばすほどの衝撃を宿している。拳と音の二重奏が相乗効果となって、相手を完全に打ちのめした」とぐらい書かないと、文章描写する意味がないと思いますね。

 それはさておき。
 ここで、掲示板上で話題に上がったのは、「プレクトゥス」という固有名詞について。
 《星近き場所》の英語読み「プレイス・クロース・トゥ・スターズ」の省略を、ラテン語風にもじった造語ですが、本作序盤のテーマである「神秘的かつ幻想的な雰囲気」を高めるためには、やはり戦場である場所にも、そうした要素が必要と判断しました。

 カラーリング的にも、夜空の黒と、雪原の白との対比。また、星輝士の鎧の黄金と、赤の対比。こういうのは絵になるようにイメージしています。
 ランツの鎧が赤なのは、モチーフが「蟹(カニ)」だからというのもありですが、ソラークの「黄金聖闘士」のイメージを払拭するためでもあります。「星輝士すべてが黄金色の鎧を着ているわけではなく、一人一人の鎧のカラーリングはキャラによって個性的にすべき」という主張ですね。その点で、星矢では黄金や白銀よりも、キャラによってカラーリングの異なる「青銅の聖衣」の方が個性的と思っています。
 また、「蟹」という言葉は、星輝士に求められる「神秘的かつ幻想的な雰囲気」とは程遠いと感じるので、設定上はともかく、作品内では使わないようにしています。あくまで「甲殻類」とのみ表記。この辺、コミックなどだと、絵柄の変化によってギャグとシリアスの切り替えが行いやすいのですが、小説だと、一度崩れたイメージを文章で立て直すのは困難になりがちなので、自分で書く場合には「極力イメージを崩さないように、星輝士を格好良く描く」を前提に考えた次第。

 最後に、「ランツ」の名前の由来ですが、「ソラーク」の方が、「イカロス(Icaros)」のアナグラムで、また「空」という言葉が入っているのに対し、「地上で戦う戦士なのでランド。それを語尾をドイツ語風にしてLanz」という風に決めた次第。
 あ、それと「蟹座(Cancer)」のアナグラムも意識したような。「Rance」だっけ。どっちかが後付けのダブルミーニングなんですが、どっちが先に思い付いたか、今となっては忘れてしまいました。

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