SFメカ別館 スパロボ雑記 本文へジャンプ
TOPページプチ創作
次ページへ

プレ・ラーリオス

太陽の失墜

目次
風の星輝士 このページ
翼と楯 こちらへ
ゾディアックの予言 こちらへ
交わりの刻 こちらへ
リメルガ こちらへ
カレンへの想い こちらへ
星輝転装 こちらへ
炎の魔神 こちらへ
拳と鉤爪 こちらへ
10 白き遺体 こちらへ
11 戦士の報告 こちらへ
12 戦いの決断 こちらへ
13 対決ラーリオス こちらへ
14 魔神の脅威 こちらへ
15 決着 こちらへ
エピローグ こちらへ


 

1.風の星輝士

 気配をとらえた。
 閉じていた目をゆっくり見開く。
 周囲に見えるは、一面の雪景色。自分以外の人影は見えない。
 しかし――。
 星輝石の加護により増幅された知覚は、確実に侵入者の接近を知らせていた。そして、その者が誰であるのかも。
「奴め。任務に違背するつもりか?」
 つぶやいた星輝士の姿は、一見、黄金の鎧を身にまとっているかに見えた。
 星輝士――星輝石の力を宿した戦士である。その肉体は、石の秘力により獣のごとき特質を備え、常人を凌駕する。その精神は、戦士に相応しい修練により、知覚とともに研ぎ澄まされている。中でも上位に属する者は、世界に充満する《気》の力さえ感知し、操作することができる、という。
 そして、星輝士を一目でそれと知らしめるもの――それこそ、実は鎧と一体化した異形(いぎょう)の肉体である。
 端正な顔立ちの男の異形は、その背中にはっきりと表れていた。黄金に輝く一対の翼は単に鎧の装飾物ではなく、本物の鳥のように繊細で、しなやかに動く。
 翼を大きく羽ばたかせると、男は(そら)に舞い上がった。跳躍した足元から、ハラハラと雪片が降り落ちる。この雪に覆われた不安定な大地をただ蹴っても、普通なら、こうもうまく跳ぶことはできないだろう。鳥人ゆえの飛翔の力だった。
 夜空には無数の星が瞬いていた。その小さな光点群の中で、男の存在はひときわ輝いている。周囲に飛翔を邪魔する風はない。ただ、静寂が漂うのみ。
 男はかすかに息を吸い込んだ。風の《気》を意識し、体内に送り込む。一種の霊的な力が腹部に達した、と感じるや、そこに埋め込まれている星輝石が淡いブルーの光を放ち始める。
 一連の流れをごくごく自然にこなし、準備が整ったと感じると、男は吸った息をヒューッと吹き戻した。その音が口笛のように余韻をもって響くや、周囲の空気がざわめき始める。
 男の周囲で、自然ならざる風が発生した。風は男の動きを邪魔することなく、柔らかに包み込む。それまで動かしていた翼を休めても、空気の流れが身を支えてくれるので、もはや落下することはない。
 次に男は、周囲を見回した。雪に覆われた高峰の斜面に、動く影は見当たらない。近づく相手の気配は依然として感じるのに――人の目は当てにならない。
輝面転装(きめんてんそう)!」
 つぶやいた男の顔が淡い光芒をもって輝き、額冠をつけた人のそれから、鋭い目を持つ猛禽(もうきん)――タカの面に変わる。鳥の目は、夜は利かないと言われるが、天には無数の星がひしめき合い、西天には満ちた月が下界に光を投げかけている。そして、足元は光をはね返す白い雪模様。夜闇に視界を妨げられることはなかった。
 まして、ただの鳥の目ではない。星輝石の加護を受けた異形の力だ。普通の動物の特質を備えつつ、より増幅された能力を秘めている。
 すぐに、タカの目は、侵入者の姿を見とった。
「やはり、奴か」
 彼と同じ星輝士。しかし、より無骨で鋭角的な赤い鎧姿の戦士が、与えられた任務を放棄し、この領域に立ち入ってきた。
 彼の守る《星近き峰》の東の斜面に。
「裏切り者には、鉄槌を下さねばならぬな」
 鳥の(くちばし)が器用に動いて人語を発すると、星輝士の拳が淡い光を帯び、手甲ごと、獲物を狙う猛禽のカギ爪に変わった。
 初手の戦闘体勢が整うや、鳥人の姿をした星輝士は、風の《気》に呼びかけた。翼を鋭角に展開し、高速移動で、目指す相手に一直線に降下する。下降気流に乗った流星の如き光の矢が一閃、夜空を切り裂いた。


次ページへ


●作者NOVAの余談

 この作品、最初に公開したのは、掲示板『SFメカ別館 会議室』でのこと。
 そちらを既読の方のために、裏話というか、後書きというか、そういった諸々の新ネタをここで掲載します。

 とりあえず、この1章は、「星輝士」というもののイメージを作る、あるいは自分で感じるために描いてみたもの。
 原案者の流転さんによれば、「アームド響鬼(仮面ライダー)」と「聖闘士星矢みたいな鎧戦士」の入り混じったヒーロー像を提示され、ただ、そのバトルイメージが曖昧というか、掲示板の話だけでは、とらえようがなかった、と。
 それでも、こちらもかつては創作家を本気で目指した男ということで、イメージだけは勝手にどんどん膨れ上がり、「ダイの大冒険のヒュンケル」とか、「闘将ダイモスのリヒテル」とか、いわゆる「クールだけど、熱いハートを持ち合わせ、美味しいところを持っていく美形ライバル」を妄想。
 本編の主人公である「風の星輝士ソラーク」が誕生したわけです。

 で、彼をいかに格好良く、神秘的かつ幻想的に描けるかが、本章、ひいては本作の骨子だったと。
 あと、自分としては、ソラークを「原典である黄金聖闘士」の要素を取り入れつつ、いかにして違いを示せるか、を意識しました。
 それが、風の《気》の設定。星矢の「小宇宙(コスモ)」みたいな便利すぎる設定にせずに、どちらかと言えば、ファンタジーRPGにおける「精霊魔法」的な技術程度の扱い。
 この《気》や、タカの目といった超視覚など、常人では感じられないものを、いかに文章で読者に伝えられるかが、「星輝士」の存在を定着させるために必要だと考えました。
 執筆中に放送していた特撮作品「ゲキレンジャー」で、「たぎれ獣の力」というセリフがありますが、ああいう実写映像では、「その獣の力をいかにビジュアル化するかが勝負」となります。でも、小説では、ビジュアルではなく、文章の力で「獣の力を実感できなければダメ」なんですね。言葉で「獣の力」と言い、書くのは簡単だけど、作者自身がそれを想像の中で実感し、その一分なりとも文章に込められ、読者の想像力を刺激できなければ、負けです。
 まあ、自分が勝てているかどうかは分かりませんが、少なくとも、書いている最中、ソラークの見ているもの、感じているものを、自分も実感していたのは事実ですので。

 あとは、星々や、月、そして太陽の様子は、物語全体のイメージソースとして、あるいは伏線としても、たっぷり背景描写に取り入れています。そういう部分に注目して、読んでみることもお勧めします。

inserted by FC2 system