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1.風の星輝士 気配をとらえた。 閉じていた目をゆっくり見開く。 周囲に見えるは、一面の雪景色。自分以外の人影は見えない。 しかし――。 星輝石の加護により増幅された知覚は、確実に侵入者の接近を知らせていた。そして、その者が誰であるのかも。 「奴め。任務に違背するつもりか?」 つぶやいた星輝士の姿は、一見、黄金の鎧を身にまとっているかに見えた。 星輝士――星輝石の力を宿した戦士である。その肉体は、石の秘力により獣のごとき特質を備え、常人を凌駕する。その精神は、戦士に相応しい修練により、知覚とともに研ぎ澄まされている。中でも上位に属する者は、世界に充満する《気》の力さえ感知し、操作することができる、という。 そして、星輝士を一目でそれと知らしめるもの――それこそ、実は鎧と一体化した 端正な顔立ちの男の異形は、その背中にはっきりと表れていた。黄金に輝く一対の翼は単に鎧の装飾物ではなく、本物の鳥のように繊細で、しなやかに動く。 翼を大きく羽ばたかせると、男は 夜空には無数の星が瞬いていた。その小さな光点群の中で、男の存在はひときわ輝いている。周囲に飛翔を邪魔する風はない。ただ、静寂が漂うのみ。 男はかすかに息を吸い込んだ。風の《気》を意識し、体内に送り込む。一種の霊的な力が腹部に達した、と感じるや、そこに埋め込まれている星輝石が淡いブルーの光を放ち始める。 一連の流れをごくごく自然にこなし、準備が整ったと感じると、男は吸った息をヒューッと吹き戻した。その音が口笛のように余韻をもって響くや、周囲の空気がざわめき始める。 男の周囲で、自然ならざる風が発生した。風は男の動きを邪魔することなく、柔らかに包み込む。それまで動かしていた翼を休めても、空気の流れが身を支えてくれるので、もはや落下することはない。 次に男は、周囲を見回した。雪に覆われた高峰の斜面に、動く影は見当たらない。近づく相手の気配は依然として感じるのに――人の目は当てにならない。 「 つぶやいた男の顔が淡い光芒をもって輝き、額冠をつけた人のそれから、鋭い目を持つ まして、ただの鳥の目ではない。星輝石の加護を受けた異形の力だ。普通の動物の特質を備えつつ、より増幅された能力を秘めている。 すぐに、タカの目は、侵入者の姿を見とった。 「やはり、奴か」 彼と同じ星輝士。しかし、より無骨で鋭角的な赤い鎧姿の戦士が、与えられた任務を放棄し、この領域に立ち入ってきた。 彼の守る《星近き峰》の東の斜面に。 「裏切り者には、鉄槌を下さねばならぬな」 鳥の 初手の戦闘体勢が整うや、鳥人の姿をした星輝士は、風の《気》に呼びかけた。翼を鋭角に展開し、高速移動で、目指す相手に一直線に降下する。下降気流に乗った流星の如き光の矢が一閃、夜空を切り裂いた。 |
●作者NOVAの余談
この作品、最初に公開したのは、掲示板『SFメカ別館 会議室』でのこと。
そちらを既読の方のために、裏話というか、後書きというか、そういった諸々の新ネタをここで掲載します。
とりあえず、この1章は、「星輝士」というもののイメージを作る、あるいは自分で感じるために描いてみたもの。
原案者の流転さんによれば、「アームド響鬼(仮面ライダー)」と「聖闘士星矢みたいな鎧戦士」の入り混じったヒーロー像を提示され、ただ、そのバトルイメージが曖昧というか、掲示板の話だけでは、とらえようがなかった、と。
それでも、こちらもかつては創作家を本気で目指した男ということで、イメージだけは勝手にどんどん膨れ上がり、「ダイの大冒険のヒュンケル」とか、「闘将ダイモスのリヒテル」とか、いわゆる「クールだけど、熱いハートを持ち合わせ、美味しいところを持っていく美形ライバル」を妄想。
本編の主人公である「風の星輝士ソラーク」が誕生したわけです。
で、彼をいかに格好良く、神秘的かつ幻想的に描けるかが、本章、ひいては本作の骨子だったと。
あと、自分としては、ソラークを「原典である黄金聖闘士」の要素を取り入れつつ、いかにして違いを示せるか、を意識しました。
それが、風の《気》の設定。星矢の「小宇宙(コスモ)」みたいな便利すぎる設定にせずに、どちらかと言えば、ファンタジーRPGにおける「精霊魔法」的な技術程度の扱い。
この《気》や、タカの目といった超視覚など、常人では感じられないものを、いかに文章で読者に伝えられるかが、「星輝士」の存在を定着させるために必要だと考えました。
執筆中に放送していた特撮作品「ゲキレンジャー」で、「たぎれ獣の力」というセリフがありますが、ああいう実写映像では、「その獣の力をいかにビジュアル化するかが勝負」となります。でも、小説では、ビジュアルではなく、文章の力で「獣の力を実感できなければダメ」なんですね。言葉で「獣の力」と言い、書くのは簡単だけど、作者自身がそれを想像の中で実感し、その一分なりとも文章に込められ、読者の想像力を刺激できなければ、負けです。
まあ、自分が勝てているかどうかは分かりませんが、少なくとも、書いている最中、ソラークの見ているもの、感じているものを、自分も実感していたのは事実ですので。
あとは、星々や、月、そして太陽の様子は、物語全体のイメージソースとして、あるいは伏線としても、たっぷり背景描写に取り入れています。そういう部分に注目して、読んでみることもお勧めします。