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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(5)


 
5.リメルガ

 天然の要害となる高峰に、建造物を築くことは困難だ。
 それゆえ、自然の洞穴を利用して、その施設は造られていた。信仰心の強い者なら、自然がそのような都合の良い場所を用意したことに、神の御心を感じるのであろう。しかし、それが神の仕業であるなら――
(もっと、煙草を自由にフかせる場所を、用意してもらいたかったな)
 洞穴内部で警護の任についていたリメルガは、そう思った。
 空気の巡りの悪い洞穴みたいな場所では、当然、喫煙は厳禁。特にヘビースモーカーというわけではないが、イライラしているときには、ちょっとした一服が気分をなだめてくれる。
 何がイライラするかというと、仕事が退屈だからだ。
 番兵というと、直立不動と相場が決まっている。ただ立って周囲を睥睨しているだけで給料がもらえるなら、こんな楽な仕事はない、と考える者もいるだろう。
 だが、それも気を紛らわせてくれる何かがあるからだ。
 人通りの多い街門では、行き交う人々を観察すれば、意外と面白い発見がある。それとなく色気を見せびらかす娘に、ちらっと目をやるだけでも退屈しのぎの刺激にはなる。
 VIP(重要人物)の部屋の前であっても、雇い主のスケジュールに合わせて扉を開閉するだけで、仕事をしているというささやかな満足感は得られる。
 それなのに――
 今、この《神子(みこ)の間》の門前では、そのような暇つぶしのかけらさえなかった。
 部屋の中では、間もなく目覚めようとしている神子、《太陽の星輝士》ラーリオスを祝福するために神官どもや、上位の星輝士が、よく分からない儀式に没頭している。その間、部屋には他の誰も立ち入らないことになっている。
 当然、神子が目覚めるまでは、扉を開放する仕事も求められない。
(目覚めるなら、とっとと目覚めろってんだ)
 そうすれば、いよいよ《月の星輝士》シンクロシア側の勢力との、人知れぬ闘争が開始される。リメルガにとっては、惰眠をむさぼるだけの平和よりも、熱くたぎる血を堪能させてくれる、生死を賭けた戦いの方が望むところだった。そして、その前に感じる静かな緊張感も心地よい。
 その、いずれも、この門前では感じられなかった。ただ、眠くなるような倦怠感だけが支配している場所だ。
 警護の者が一人なら、お気に入りの歌を口ずさむなり、口笛を吹き鳴らすなり、できたろう。だが、相方の前では、それすら許されない。
 いまだ実戦を経験したこともないような若僧。
 名前は聞いたが覚えていない――話をしても、素人すぎる甘ちゃん坊やで、ちっとも噛み合わない、そんなガキの名前なんてどうでもいい。
 向こうは、それでも、しきりに話しかけてきたが、だんだんイライラしてきて鬱陶(うっとう)しくなったので、ギロリと一(にら)みしてやると、それっきり黙りこくった。
 こんなビビリ野郎が、どうして星輝士に選ばれたんだ?
 かすかな疑問を覚えつつ、一度、こわもての振る舞いをして見せた以上、うかつに口笛なんて鳴らして、ナメられるわけにもいかない。
 結局、今のリメルガにできることは――
 こわばった全身の筋肉をほぐし、
 ボキボキと関節を鳴らし、
 両腕をブンブン振り回し、
 膝の屈伸運動を始めるだけだった。
「リ、リメルガさん、どうしたんですか?」
 いちいち、つまらないことに質問を投げかけてくる若僧に、自分では感情を抑えたつもりで、言い放つ。
「馬鹿野郎。星輝士たるもの、時間があれば、体の鍛錬を怠るなってことだ!」
 我ながら説教臭いぜ、と思いつつ、少なくとも先輩戦士としての威厳は保てたな、と感じる。いったんは満足した。だが――
「な、なるほど。よし、ぼくも! 一、二! 一、二!」
 瞳を輝かせて、急にリメルガのマネをして、屈伸運動(スクワット)を始めた若者に、ため息をつく。
(これしきの運動くらい静かに黙ってできねえか!)と、怒鳴ってやりたい気持ちを何とか抑えこんだ。

 《神子の間》で、洞穴全体を揺さぶる轟音が響いたのは、そのときだった。


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●作者NOVAの余談

 ここから「第2回掲載分」。
 まずは、書く方の気分転換の意味も込めて、新キャラを登場させています。
 章題にもした「第3の星輝士リメルガ」は、掲示板上の設定募集で、ノリヒコさんが提案したキャラクター。

 星騎士は、上位と下位に分かれており、上位の代表がソラークとするならば、リメルガは下位の代表として描くつもりでした。
 体の大きな巨漢で、典型的なパワーファイター。それでも意外と器用な飛び道具使いで、目上の人間にも逆らう反骨的性格の持ち主。ノリヒコさんの提示されたキャライメージは、大体、こういう感じだったと思います。
 これに、NOVAとして、どういう味付けをしていくかが課題だったのですが、キーワードとしては「ハードボイルド」で固めることにしました。

 そして、これが一番大切なことですが、「決して3枚目のキャラにしない」
 あまりに格好悪い扱いにしてしまうと、設定を提案したノリヒコさんに申し訳ない。むしろ、自分の作ったキャラ以上の愛着をもって、格好付けさせてやることが礼儀だと考えました。
 もちろん、ストーリー中での役割があり、また「下位の星輝士」である以上、最後に美味しいところを持っていくことはできないのですが、それでも相応の存在感を持ったキャラとして活躍はさせたい、と。

 そして、リメルガのハードボイルドぶりを引き立てるために、「ハードボイルドとは対極にある未熟な若者キャラ」である「天狼のロイド」を思いつきで設定。
 この辺、ランツの時もそうですが、ソラークも、リメルガも、必要最低限のこと以外はしゃべらないことで格好良さを演出しようと思っています。でも、それだと、話がうまく進まないので、話をリードする相方を用意してやる、と。
 相方キャラは、3枚目でもかまわないし、思いつき設定をどんどん継ぎ足してもかまわない。主要キャラの軸がぶれなければOKと。

 前章と同様の性格分類の話をするなら、リメルガは「内向的感情→外向的感覚タイプ」になります。
 基本的に無口で、外向的ではないのですが、他人の気持ちには敏感で情に厚い奴です。
 ただ、外部に対しては観察力を持ち合わせ、さらに快不快の刺激や、状況の変化に反応する感性で積極的に行動できるキャラ。
 この点、ランツの持つ「内向的感情」や、ソラークの「外向的感覚」と通じる部分を持ち合わせ、どちらに対しても、うまく合わせて行けるキャラだとも言えます。

 一方のロイドは、「内向的思考→外向的直感」……ということは、割とNOVA本人に近いキャラということになります。正直、あまり深く考えずに書いたので、昔の自分がそのまま出てきたような気がします。現実の自分は「外向的感覚」を目指そうとしていたので、ロイドの方がより空想的で、好奇心旺盛、そして後先考えずに突っ走ると思いますが、まあ、あまり他人のようには思えません(笑)。
 いずれにせよ、リメルガとは対極に位置するキャラになりそうですね。自分自身、リメルガみたいな体育会系ハードボイルドキャラが身近にいれば、どうコミュニケーションをとっていくか、非常に緊張すると思いますし。

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