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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(6)


 
6.カレンへの想い

 洞穴の外で。
 《峰》(プレクトゥス)の空と大地の見張りを続けている二人の星輝士の話題は、来たるべき《月》と《太陽》の戦いに移っていた。神子の目覚めを待って、戦いが開始されることになっている。今は静かだが、すぐに命をかけた死闘の幕が切って落とされるのだろう。
 嵐の前のような、かすかな緊迫感が、話をしたい気分を生んだのかもしれない。そのようにソラークは考えることにした。
 風は黙っている。
 地面も穏やかなものだ。
 夜明け前の静寂(しじま)に響き渡るのは、自分と僚友の声だけだった。
「それで、お前、妹のことはどう考えているんだ?」不意に、ランツが尋ねた。
「カレンのことか?」話題がいきなり変わったことに、ソラークは戸惑った。
「ああ、女の身で上位の星輝士に選ばれるとは、大したお嬢さんだが、今度の戦いに巻き込んでも兄貴として平気なのか?」
「心配してくれているのか?」僚友の思いがけない優しさに、ソラークはわずかに頭を下げた。
「心配……って言うか、オレは天涯孤独だからな。正直、家族って奴がうらやましいし、それを持っている者は大事に守ってやるべきだ、と思う」
……そうだな。カレンには巫女付きの侍女を勧めたのだが、あれは強い女だ。私と同じ星輝士の道を志す、と言って聞かなかったのだ。まさか、上位に選ばれるとは意外だったが……。なまじ大切な身内には、そういう危険な才能はない方がよかった、と思っている」
「ふうん」
 ランツは、軽い相づちをうつと、ニヤリと笑みを浮かべた。「兄貴が優秀だと、妹も後を追いたくなるってもんじゃないか?」
「あれが弟なら、素直に喜べるんだがな」
「だったら……」若干ためらうように口ごもり、ぼそっとつぶやく。「結婚とか……そういうことは……兄貴としては考えているのか?」
 この男には珍しく歯切れの悪い言い方を聞いて、ソラークはうっすらと相手の真意に思い当たった。
「貴様みたいな軽い男には、やらんぞ」にべもなく、そう言い放つ。
「だ……誰が、そんなことを言った!」身につけた鎧のように顔を赤く染めながら、慌てて、ランツは否定した。
 それを見て、ソラークはくっくと笑う。「貴様は正直すぎるのだ。たとえ、ウソをついても、すぐに顔に出る」
 それから表情を真剣に変え、僚友の目をしっかり見つめた。「だが、貴様の正直さは、嫌いじゃないぞ。あれさえ良ければ、兄として異存はない。遠からず、戦士ではなく、一人の女性として身を落ち着けてほしい、と思っていたからな」
「し……しかしよ、急にそんなことを言われても、格式とか、しきたりとか……」いきなり身分のことを気にしだすランツに、
「家名は捨てた、と言ったはずだ。今は、一人の星輝士。私も、あれもな。星輝士の仲間として信頼できる男に妹を守ってもらえるなら、兄としてこれほど心強いことはない」そう言って、射抜くような目で相手をにらみつけた。「守ってくれるか?」
「あ、ああ、任せておけ!」口調と視線に力を込めて、きっぱりランツは応じてきた。
「オレの防備の固さは万全だ。しっかり守り通してみせるぜ」満面の笑みを浮かべて勢い込んでいる単純な僚友に、
「すべては、あれが認めてからの話だ」ソラークは念のため、くぎを刺しておくのを忘れない。
「ああ、もちろんだ。実のところ、最大の難関はお前、いや兄貴だと思っていたんだ。これで、あとは、カレンに告白するだけだ!」
……どうも、私は貴様に、兄貴と呼んでほしくはないようだ」ソラークは、舞い上がるランツにぼそっとつぶやいた。
「え? 何か言ったか? 兄貴?」
 聞こえていない反応に、ため息をつく。

 《神子の間》のある洞穴から、轟音が響いてきたのは、そのときだった。
「兄貴?」
 その呼び名はよせ、と思いつつ、非常事態にソラークの神経は急に張りつめた。風の《気》は、空に異常がないことを伝えてくれる。
「地面からも、侵入者の形跡はない」笑顔から一転、真剣な面持ちになったランツはそう断言した。
「どうやら、原因は洞穴の中みたいだな」獅子身中の虫、という言葉をソラークは思い出す。
「内部に裏切り者が?」ランツは反応して、即座に行動した。「カレンが危ない!」
 叫ぶや、彼の腹部の星輝石が、オレンジ色の光を放つ。
 それに応じて、赤い鎧の背部装甲が移動し、足元に固定される。
 側胴部の節足パーツ六脚を備えた装甲板が、移動用の台座としてランツを運んで、徒歩では移動しにくい雪上を滑走する。
 これが、空を飛べないランツが、地上や水上をあたかも滑走板(サーフィンボード)のように高速移動する形態なのだ。背部装甲がなくなる分、防御力は落ちるが、敵に背後を取られなければ関係ない。むしろ、移動力が高まった分、回避能力や奇襲能力が上がり、戦闘の組み立てにも幅が出てくる。
 妹の危機に、自分よりも早い反応を示した僚友を一方で好ましく思いつつ、一足遅れて宙に舞ったソラークは、星輝士らしくつぶやいた。
「カレンもいいが、ラーリオス様のことも心配しろ」と。

 守るべき神子の身に何が起こったのか――不安が心をよぎった。


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●作者NOVAの余談

 ここで、本作のヒロイン(?)と言うべき、「カレン」の話題が挙がります。
 いや、まあ、じっさいは本作は「ヒロイン不在の物語」なんですが、一応、一輪くらい華があっても……と思った次第。
 どうも、昔、男キャラばかりのTRPGリプレイ小説ばかり書き溜めた影響で、女性キャラを描くのが苦手です。独自に書いていても、「守られ役のお姫さまキャラ」とか、「癒し手役の女僧侶」とかになってしまい、「バトルヒロイン」はあまり書き慣れていないな、と。

 それはともかく。
 カレンの名付け親は、原案者です。
 ラーリオス本編のヒロインの名が当初は「日の森華蓮」だったのが、副主人公の「蓮夜」とかぶるので、結局、「日之森梓」になったという経緯がありまして、要は「ヒロインのボツネームの流用」になるわけですね。

 で、自分としては、「華蓮→梓」に名前が変わったのと同様、「カレン→梓」に星輝石が継承され、ソラークは妹カレンの面影を、梓に重ねて見るというドラマを提案したわけですが、それに対する原案者の反応が今ひとつ、というか、そういう他人の作った設定を自分の作品に積極的に取り入れよう、という意気込みがあまり感じられなかったような気が。
 そういう反応こそ、共同企画を進める上では大切だと思うんですけどね。まあ、不服なら、「自分はこういう方向性で物語を展開しようとしているので、その設定は残念ながら入れることができない」と応じてくれれば、こちらも考えようがあったのですが、そんな話し合いにすらならなかったのが残念。

 さて、そのような経緯で見切り発車的に登場したカレンですが、当初は「ソラークがプレ・ラーリオスと戦うための動機」でしかありませんでした。
 でも、4章でランツに自由に喋らせていたら、「自軍が負けると思ったら、逃げ出す」なんて発言したじゃありませんか。すると、当然、強大な敵である「プレ・ラーリオス」に対峙したら、自分を犠牲にして戦うなんて騎士道精神を発揮するはずがありません。ここでランツの性格をストーリーの都合に合わせて、ねじ曲げてしまえば、それこそ「作者の操り人形に堕したキャラ」になってしまいます。
 作者にできるのは、キャラの行動の操作ではなくて、キャラが行動する動機を提示することで、間接的に物語を動かすこと。ある意味、TRPGのゲームマスターが、プレイヤーキャラに対する姿勢と変わらないわけですね。「プレイヤーは、自分のキャラにしたいことをさせられるが、何でもできるわけではない。ゲームマスターは、ゲーム世界で何でもできるが、プレイヤーキャラのしたくないことはさせられない」といった感じで。

 そんなわけで、この6章を書きながら、急遽、「ランツはソラークの妹のカレンに惚れている」という設定が誕生しました。
 すると、ランツが任務違反を犯して、ソラークと喋りに来た理由も、ここに来て突然、「カレンのことで、何とかソラークと話したい」という恋する純情少年丸出しの動機になってしまったわけです。
 本作を書き始めた段階で、NOVA自身はそんな話を全然構想していなかったにも関わらず、ランツが勝手に自己主張してしまった、と。
 作者としては、「おいおい、ランツ、お前ってそういうキャラやったんか」と発見した瞬間。
 4章の時点では、何だか「口八丁で、偉そうで、ひねくれた感じの不良少年」みたいな発言を繰り返していたランツが、「実は照れ屋で、内心、想い人の堅物の兄貴の前で何を話したらいいかドギマギしながら、悪ぶった自己主張をしていた奴」ということに気付くと、もう我が子のように可愛くなってくるじゃありませんか。

 あと、ランツについて書いていて面白かったのは、鎧のメカニックなギミック。
 最初は、「左手の防御用の丸楯」と「右手の攻撃用のハサミ」だけだったのに、4章で「地上の音を探知するセンサー内蔵の節足パーツ」が生まれ、本章では「スノーボードになる装甲板」が生まれ、何だかどんどん進化していきます(笑)。
 これも当初からあった設定ではなく、書きながら思いついて行ったもの。
 ソラークなんかは、書く前からほぼ完成したキャラクターであり、書くことで再発見するようなことは、ほとんどなかったのですが、
 ランツは、書くことで、どんどんキャラが深まっていきました。
 4章で、ソラークは「傭兵上がりの男の話に、いつのまにか引き込まれている自分を自覚した」とありますが、書き進めるにつれて、これはNOVA自身の実感にもなったりしました。

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