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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(9)


 
9.拳と鉤爪(かぎづめ)
 星輝石の力を受け入れ終わったのか、ラーリオスが動いた。
 注目を自分に引き付ける目的で、リメルガはウォーーッと咆哮をあげた。
 それに応じるかのように、魔神も表情をもたない仮面から、グァーーッと威嚇の音を鳴らす。それは、どの動物の吠え声にも似つかない、大地の鳴動のような叫びだった。周囲の空気がビリビリと震える。
 先手必勝!
 リメルガは手甲に包まれた右の拳を相手の腹部に叩き込んだ。岩をも砕く剛腕の一撃。
 ラーリオスは避けなかった。
 勝った。
 リメルガは確信した。
 避けられたり、身を引かれたりしたならともかく、今の一撃はまともに入った。すぐに、相手の赤い鎧にひびが入り……そして――
 ジューッと肉が焼ける感触がして、リメルガは慌てて拳を引いた。
(こいつ、全身が炎の塊みたいなもんか)おのれのうかつさに気付いたが、相手の反応を確かめる。自分の拳も火傷を負ったが、相手も相応の衝撃を受けたはずだ。
 しかし――
 ラーリオスの赤い装甲は何の影響も受けていなかった。先ほどのひびは……鎧にまといつく炎のゆらめきをそう感じとっただけだったのか。
(こいつに接近戦は危険だな)
 リメルガはそう悟った。一撃浴びせるたびに、こちらがダメージを喰らっていては、割に合わねえ。
(どこかにガトリングガンでもなかったか? いや、威力のあるマグナムでもかまわねえ。急所にぶちこみさえすれば……
 しかし、星輝士と神官しかいないこの《峰》に、そのような近代的火器を持ち込むような者はいなかった。星輝士の武術は、通常の火器の威力を凌駕する。リメルガの拳一発は、ダイナマイトの爆発力を秘めているはずなのに……目前の魔神には通用しなかった。
 のんびり考えている暇はなかった。
 ラーリオスが反撃に移ったのだ。痛みに鈍感なのか、奴は攻撃をかわす様子がない。ついつい、動きが鈍重なのだと勘違いしてしまう。だが、一度、攻撃に転ずると、外見どおり炎のような勢いで踏み込んでくる。
 ラーリオスの鉤爪が、攻撃を加えたリメルガの右拳をつかんだ。
「ウガァァァァーーーーーーーッ」ボイラー室に腕を突っ込んだような苦痛が、襲い掛かってきた。単に火傷を負っただけじゃない、拳そのものを引きちぎられるような感覚が、リメルガの全身を貫いた。
 その直後、こちらの攻撃手段の一つを奪ったラーリオスが悠々と蹴りを入れてきた。
 リメルガは今だかつて味わったことのない衝撃を受けて、吹き飛んだ。
 壁にぶち当たって、めり込む。
 石の欠片がパラパラと砕け落ちるような感触が、妙に生々しく耳に響いた。
 畜生、こいつは格が違いすぎるってことかよ! 
 珍しく、弱気になりかけた自分を叱咤(しった)しつつ、つぶやいてみせる。
「ヘッ、てめえみてえな不味(まず)い煙草は、のんびり吸う気になれねえんだよ」
 魔神の身にまとう炎の熱気と、周囲に充満する焼けた煙に、わずかにむせて咳き込みながら、巨漢の星輝士は立ち上がった。

「リメルガさん、大丈夫ですか」
 犬っころの若僧が、そばに寄ってきた。
「小僧……」日常の退屈なイラ立ちが戻ってきて、リメルガはうんざりと声を出した。「馬鹿野郎、てめえ、逃げてなかったのか?」
「黙って見ていろ、と言ったのはリメルガさんです」そう生意気な理屈を口にする。「でも、もう黙って見ていられませんよ。ぼくだって星輝士の端くれです。及ばずながら助太刀します」
 力が及ばねえなら、助太刀って言わねえんだよ。そういう一人前のセリフは、もっと強くなってから口にしろ! と言いたい気持ちを抑えて、リメルガは魔神の動きを見やった。
 あの野郎! 
 ラーリオスはもはや、リメルガを見ていなかった。
 白鳥鎧の娘が自ら囮になっているのか、宙に舞いながら、手裏剣みたいな物を投げて、牽制(けんせい)している。
 魔神がこちらを気にしている様子はない。
 とどめを刺しにも来ず、無視しているのか?
 下位の星輝士など敵ではない、と見なして。
 魔神の腹部の赤い石、胸の紫の石に呼応するかのように、白鳥娘の腹部の星輝石が淡い緑の光を発しているのが見えた。
「奴の狙いは、どうやら上位の星輝石みたいだな」思いつきを口にする。
「ヘッ?」
 反応の鈍い犬っころに、()んで含めるように指示する。
「お前は、あのお嬢ちゃんを連れて、外に逃げるんだ。そして、見張りについてる上位の二人を連れて来い!」
「リ、リメルガさんは?」
「ここで時間稼ぎをするに決まっているだろうが! いいから早く行け!」
「は、はい」張り切った声を出して、未熟な若者は死地へと飛び込んで行った。

 そして――
 失敗した指示を下し、守るべき女子供を守りきれなかった悔恨(かいこん)が、後年、リメルガを長きに渡って苦しめることになる……


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●作者NOVAの余談

 ここまでが、「第2回掲載分」。
 本来の主役であるソラークを差し置いて、とことんリメルガ視点で書いた感じですね。
 リメルガは、自分の中の「ハードボイルド成分」を全開して書いたキャラで、今までこういう役柄をじっくり書いたことはなかったので、新鮮な経験でした。

 そもそも、こういう巨漢の戦士というのは、「美形が強い」車田作品では、「序盤のザコ敵」「味方であってもかませ犬」的扱い。小次郎で言えば、仲間の「劉邦」。星矢で言えば、「ベアーの檄」や「タウラスのアルデバラン」が代表的。あと、リンかけ2で言えば、「スコルピオン配下のビッグモス」や「イタリアのブルータス」。
 ただ、ぼくはこういう「武蔵坊弁慶」的な怪力キャラは、味がある、と思っています。こういうキャラの醍醐味は、「仲間を守る壁」として、「ここはオレに任せて、お前たちは先に行くんだ!」と訴えるシーン。RPGでも、HPの高い重装甲の壁役というのは重宝しますし。

 ただ、リメルガを書くのがあまりに面白すぎて、熱が入りすぎた、と思いました。
 正直、リメルガに感情移入しすぎて、主人公のソラークがどうでも良くなってしまったり(笑)。それでは、さすがに作品としてバランスが悪いだろう、と感じたりも。
 でも、「主人公以外の脇キャラにスポットが当たり、主人公が置き去りにされる」のも、ある意味、車田マンガ、あるいはその他のバトル物路線でありがちかな、と。

 ともあれ、この章は「リメルガVSラーリオス」です。
 でも、敗北が確定している戦いです。リメルガは、自分を犠牲にしてでも、女子供を守ろうとします。しかし……、まあ、その後の悲壮な展開は、書かぬが花か、と思いました。書いていて、自分が鬱になりそうだったからです。それだけ、リメルガに感情移入もしていたわけで。
 正直、「自己犠牲の末に大きな目的を果たす」という展開なら、そういう華々しい大舞台を自分は迷わず、書いたと思う。でも……「守ろうとした物が守りきれず、自分一人、おめおめと生き延びてしまう」、こういうのは自分の無力さを痛感する辛いパターン。
 こういうのは、生々しく書くよりも、後からの回想シーンで振り返る方がいいか、と思います。
 ま、後に別の形で書く機会があれば、とも思ってはいたのですが。
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