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プレ・ラーリオス

太陽の失墜(8)


 
8.炎の魔神
 拳一発で、大扉は一瞬の粉砕音とともに、跡形もなく吹き飛んだ。門扉そのものが物理的に破壊されてしまえば、術による封印なんて関係ない。
 もっと慎重な性格の戦士なら、封印を解く手段を求めたり、扉を押し開くために力を加えたりするだろうが、時には小細工などをせずに「単純な破壊」こそが道を切り開くこともある、ということだ。

 しかし、「単純な破壊」は、リメルガの専売特許ではなかった。

 《神子の間》の内部は、扉の破壊など気にならぬほど惨憺(さんたん)たるありさまだった。
 熱気が吹き荒れたように、内装は焼け焦げ、肉が焦げるような臭気が充満している。
 まるで、火事跡、いや、空爆を受けた都市だな、と一瞥(いちべつ)、リメルガは思った。
 違うところは、瓦礫(がれき)がないこと。
 それも衝撃で(もろ)くなった天井が崩れてきたら、見事に戦場となった廃墟の縮図が完成だ。
 どこのテロリストが、ナパームをぶちこみやがったんだ。
 一瞬、そう考えて、すぐに取り消す。
 こんなところにテロリストは来ねえ。
 来るとしたら――星輝士。
 いや、来たんじゃねえ。外から侵入した気配は、微塵(みじん)もなかった。
 敵は最初から内部にいたんだ。
 そして、今も戦っている。
 リメルガは、部屋の中央で荒れ狂っている、威圧感むき出しの赤い鎧姿をにらみつけた。
「あ、あれは、炎の魔神イフリートですよ。いや、バルログかな? ゲームで何度か戦ったことがある……
 背後の若僧が震えながら幼稚な解説を述べる。ゲームと現実を一緒にするなってんだ。
 だが、炎の魔神、というのは言い得て妙だ。黒と赤のコントラストを成した燃えるような鎧が、奴の身を包んでいる。
 いや、実際に燃えているのか?
 下位の星輝士にははっきり感知できないはずの炎の《気》が、奴の全身にまとわりついている。この強すぎる《気》が周囲に一気に解放されたら……なるほど、バーベキューのでき上がりってわけか。
 生身の人間なら、一瞬で焼死体の仲間入り。
 耐えられるのは、星輝石の加護を受けた星輝士ぐらいなものだ。
 中にいた神官どもは全滅だな。連中の中には、星輝石のかけらを託され、ちょっとした術を使いこなす者もいるが、肉体的には一般人と何の変わりもない。
 今、部屋の中で生きているのは、リメルガ自身と、犬っころの若僧、そして今、炎の化物と戦っている二人の上位星輝士のみ。
 一人は、紫の鎧のキザなトカゲ野郎。いや、魚類だったか? どっちでもいい。
 もう一人は、白鳥の姿の女星輝士。そちらは女性が珍しい世界ということもあって、印象に残っていた。外で見張りの任についている元貴族のボンボンの妹だ。星輝石は、その者の自己イメージ、魂の本質に合わせたかのような動物、伝承の姿をまとわせる、と聞いたことはあるが、なるほど兄貴が鳥なら、妹も鳥ってわけか。
「相手が炎なら、氷属性が有効ですよ。リメルガさん、敵の弱点は氷です」
 知ったかぶった若僧の声が、いらだたしく響く。
 その時、紫トカゲが《気》をこめて、技を放った。
 氷結嵐(アイス・ブリザード)と言ったかどうかは分からねえが、具現化した氷の《気》が吹雪となって、魔神に襲い掛かり――すぐに蒸発した。
「これでも、氷が有効ってか?」
 実戦を知らねえ、ヘタな理屈ばっかりの若僧に声をかけてやる。
「あんな化物に、小細工は通用しねえ。力で粉砕するしかないだろうぜ」
「そ、そんな無茶な……」ためらう若僧に、
「てめえみたいな素人は、そこで黙って見てろ。死にたくなければな」言い放って、ズンズン、部屋の中央に歩んでいく。
 その間に、魔神は一声、威嚇の声をあげると、巨体に似合わぬ意外と早い動きで、紫トカゲに近づいた。そして、鉤爪の生えた拳を振りかざすや――上位星輝士の装甲ごと、胴体を貫き通す! 
 そして数瞬置いて、絶命した星輝士の肉体は炎を上げて燃え上がり、骨すら残さず、完全に消失した。
 後に残ったのは、主の死を悼むかのように、ほのかな紫の光を放つ星輝石のみ。
 その石を、魔神は戦利品のように、おのれの胸に装着した。赤いシルエットが、一瞬、紫の色合いを帯びる。
「てめえ……!」リメルガは、瞳に殺気を乗せて、魔神に歩み寄った。「こんな人でなしなことをしやがって! 何者だってんだ!」
「こ、このお方がラ、ラーリオス様なんです」かたわらの白鳥鎧の娘が、おびえてはいたが、それでも凛とした声で説明する。同僚の身に起こった惨状を目の辺りにしながら、自制を失わないとは、気丈な娘だ。「目覚めた途端、暴れられて……
「こいつがラー……リオスだと?」リメルガは油断なく、魔神の動向を見据えながら応じた。ラーリオスと呼ばれた魔神は、手に入れたばかりの胸の星輝石の力を受け入れようとするかのように、動きを止めている。
「オレたちが守ってきたのが、こんな化け物だと言うのか?」
「《太陽》の星輝石の力を受け止めきれず、制御を失って暴走したのだと思います。何とかお静めできれば、と思ったのですが……
「お静めだと? そんな悠長なことを言ってられるか! 神子だろうと何だろうと、暴れるガキは、力ずくで黙らせるしかねえ!」
「私も協力します」娘は言ったが、
「女子供は邪魔だ。引っ込んでいろ!」リメルガは、相手が自分よりも格上の上位星輝士であることには構わず、傲然(ごうぜん)と言った。
 しかし娘は、
「私も星輝士です。足手まといにはなりません」と引きそうにない。
「だったら……上位の術とやらで、援護に回ってくれ。前に立つのはオレだ!」あくまで主導権を崩さない。
 白鳥面をした娘は、納得したようにうなずいた。
 やれやれ。戦場に立つと決めた以上は、老若男女関係ねえ。
 自分の命の面倒は、自己責任。
 だがな、リメルガは感傷的に考えた。強い者が、弱い者を守って戦うのは当たり前じゃないか。
 力をただ、荒れ狂わせるだけの魔神――人としての自制心や意志を失い、本能のままに殺戮を繰り返すラーリオスを、威嚇するように睨み付ける。
 てめえなんて、《太陽の星輝士》などという尊厳な名前には値しねえ。


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●作者NOVAの余談

 いよいよ、ラーリオスの登場です。
 本来は、一連の企画のヒーロー(主人公)として設定されたラーリオスですが、本作では「強大な敵役」として登場。
 企画の原案者である流転さんは、ラーリオスを「最強の星輝士」「それでも当初は未熟」という前提で主張していました。その方向性には異論がなかったのですが、その意図通りの展開を忠実になぞるなら、「星輝士の魅力」が描写されるまで、時間がかかりすぎる、と考えました。

 現に、原案者の描いた第1話は「ラーリオス誕生編」で、星輝士の戦いはほとんど描かれず、
 続く第2話は「ラーリオスVSクモ怪人」という基本に忠実なストーリーですが、どうも書く人に「敵を倒すことを逡巡する」という迷いがあったためか、バトル物としてはいまいちカタルシスのない終わり方。まあ、ラーリオスが助けた相手を、謎の刺客が抹殺するという形で決着をつけたわけですが、初戦は無難に終わらせて、謎の刺客云々は2戦目以降でも良かったのでは、と。
 さらに第3話は「修行によって急にパワーアップしたラーリオスVS狼怪人」ですが、このパワーアップぶりが極端すぎて、不評でした。

 今さらながらですが、「誕生編」は回想などで後から描いて、物語の途中からでもいいから、「ある程度強くなっているラーリオスと敵星輝士の典型的なバトルシーン」を描いて、「自分はこういうラーリオスの姿を描きたいんだ」「自分はこういうバトルが文章で描けるんだ」というのを、早めに示すべきだった、と考えます。

 で、NOVAの「プレ・ラー」ですが、「ラーリオスの強大すぎる力が暴走した姿」を描き、それと対峙する上位星輝士との戦いを通じて、「星輝士バトルとはこういうもの」「ラーリオスの力は本来どれだけの強さなのか」を明示するのが目的。
 当初の頭づもりでは、ゾディアックに改造されたラーリオス雄輝が暴走して他の星輝士を蹴散らしながら組織から脱走し、追っ手との間に孤独なバトルを繰り返しながら、やがて共闘する仲間を見出し……という流れをイメージしていたのですが、どうも打ち合わせが不十分だったようで、先に公開された原案者の第1話はそういうストーリーとは無縁のものになりました。
 こちらは「日常を失った主人公が、戦いの中で、かけがえのないものを見つけ出し、あるいは取り戻していくストーリー」をイメージしていましたが、原案者の方では「日常生活を維持しながらの、ラブコメ混じりのバトルストーリー」を描きたかったようで、この辺のギャップをどうすり合わせていくか、が掲示板上での課題と感じていました。
 そして、原案者の描きたいものを尊重しつつ、自分のストーリーを描く手段として、「NOVAの描くプレ・ラーリオスは、文字どおり『ラーリオス以前の物語』であり、『流転さんのラーリオスとは別人』という設定」を思いつき、だったら「別人なので、死ぬまで本気のバトルをやってもいいな」と開き直った次第。
 それでも、全く、原案者の描写を無視するなら、共同企画で行う意味がないので、そちらのラーリオス描写をチェックしました。

顔は銀色で人面を抽象化したようなものになっており、身体は黒のレザースーツのような皮膚で、胸部と肩、上腕部の半ばから指先、腰まわり、大腿部の半ばから爪先が真紅の鎧に包まれていた。皮膚感覚はさっきまでとまったく変わっていない。

 それに対するこちらの描写は、ロイドのセリフにある通り、基本イメージはファンタジーゲームにある「炎の魔神イフリートあるいはバルログ」。他には、原作版のデビルマンなどもイメージソースにはありますが、空は飛べないので翼は持ちません。
 「威圧感むき出しの赤い鎧姿」「黒と赤のコントラストを成した燃えるような鎧」といった描写で、鎧を強調。あまり細かい描写はしていません。この辺、小説でどこまで描写するかは微妙な問題で、「描写が細かければ細かいほど、物語のテンポが落ちる」「また全体的なイメージがうまく伝わらない」とNOVAは考えるため、このシーンでは、あくまでリメルガの目から見た全体的なイメージのみ。
 後で(13章)、ソラーク視点のラーリオス描写をもっと細かく行っていますが、これは同時にソラークとリメルガの観察眼の違い、をも意図しています。概して、ソラークは相手の特徴の細かいところまでチェックする一方、リメルガの場合は必要最低限を見とれば十分、と考えるキャラですね。

 さて、ここでは「氷の星輝士(ジルファー)」が登場し、瞬く間にラーリオスに倒されています(笑)。
 彼もロイドと同様、当初のプロットでは登場していなかったキャラ。ロイドが「炎の魔神に対しては、氷属性が有効」というファンタジーゲームのお約束を口にし、その通りの攻撃を行ったにも関わらず、ラーリオスには全然通用せずに、あっさり返り討ちに。
 属性的に有利な上位星輝士であっても、暴走したラーリオスには勝てない。そういう場面を描きたかったわけで、まあ、典型的なかませ犬だな、と。でも、この埋め合わせはいつかする予定。

 また、このジルファーの氷属性、本来はカレンに担当してもらおうかな、と思ったこともありました。
 カレンの変身態は白鳥。白鳥といえば「星矢のキグナス氷河」であり、彼の属性がカレンとジルファーに分かれております。もちろん、参考にしたのは属性だけで、性格はまったく異なるのですが。
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