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プレ・ラーリオス

夜明けのレクイエム(2−2)


 
2ー2章 マッスル・トレーナー

 巨漢のリメルガと、小柄なロイド。
 目覚めたての静かな空気を、たちまち、かき乱した凸凹コンビ。
 こいつら、一体、何しに来たんだ? 
「あのう、呼び名はもう、リオでも何でもいいけど、さっさと用件を言ってくれないかな?」
 ぼくは、イライラした気持ちを言葉に込めて、二人の闖入者(ちんにゅうしゃ)をにらみ付けた。
「イヤだなあ、リオ様。そんな怖い顔をしないで下さいよ。ぼくたちは、ジルファーさんの指示で、着替えとか、身の周りのものを……」
「お前は黙ってろ、と言ったはずだ!」
 説明しようと前に出てきたロイドの首根っこを、リメルガの巨大な手がひっつかむ。ネコみたいにひょいっと宙に持ち上げられたロイドは、バタバタと足を動かして、もがいている。ぼくが戸惑っているあいだに、ロイドはポイッと後ろに投げ捨てられた。
 どこかマンガじみた非日常な光景だけど、この凸凹コンビには似つかわしいかも。
 何事もなかったような風情で、リメルガはこちらに目を向ける。
「紫トカゲは関係ねえ。オレは自分が来たいから、ここに来ただけだ」そう言って、サメのような笑みを浮かべる。
 あ、そこだけ微妙に、ハードボイルド風味。
 でも、紫トカゲって何?
 その疑問に応じるように、ロイドが首をさすりながら、ぼそぼそと口早に言っているのが、かすかに聞こえた。「紫トカゲってのは、ジルファーさんのことです。リメルガさんは人の名前を覚えようとしないんですよ。おまけに、口が悪いし、すぐに手を出すし……」
 でも、ロイドのボヤきは、最後まで聞こえなかった。
 リメルガが、重々しい口調で、ゆっくりと宣言したからだ。
「オレがここに来た目的は、ただ一つ。それは、リオ、お前が《太陽の星輝士》に値する男かどうか見極めるためだ」
 殺される……?
 一瞬、そういう思いが浮かび上がるくらい、リメルガの表情は、はっきり殺意を示していた。
「み、見極める……って、どうやって?」今までの人生で、これ以上ないぐらいの脅しに、身震いを感じながら、おずおずと訊ねる。
 答えは単純だった。
「かかって来い!」
 その瞬間、ぼくは巨漢の腹に拳を叩きつけた。
 
 まるで、鋼鉄の壁を殴ったようだった。右腕に、(しび)れが走る。
「くっ……」左手で痺れた箇所を押さえながら、数歩後じさって、距離をとる。
 リメルガは、ニヤリと微笑を浮かべた。
 歯をむき出しにした、その表情が恐ろしいまでの余裕を感じさせた。こっちのパンチが、全く効いている様子がない。
 この男の外見は、ただの見掛け倒しなんかじゃない。本当に、鍛え抜かれた殺人機械、あるいは戦士の肉体がそこにはあった。
「いきなり仕掛けてくるとはな」どこか楽しんでいるようなセリフ。「ビビッて、泣き言をぬかすかと思ったぜ」
「そういうの、嫌いなんでしょ?」リメルガの視線を、ぼくは真っ直ぐとらえた。威圧されたら負けだ。それに……この男の恐ろしさは、見た目のままに過ぎない。ジルファーやソラークのような、静かな、それでいて、底知れない謎めいたパワーは感じられない。
 ある意味、分かりやすい、手に届くような力。
 鍛えれば、自分にも身に付けられそうな強さ。
 効かなかったとは言え、最初に拳を打ち込めたことで、どこか気持ちに余裕が生まれた。勝てはしないけど、対等には振る舞えるような気がした。
「……思ったより、度胸が据わっているようだな」
「十分、ビビッてるって」今さら虚勢を張るつもりはなかった。そんなものは、格上の相手にはたちまち見透かされる。「先手必勝。破れかぶれの一撃。そう思ったのに、全く通用しないんだから」
「戦場では、猛者(もさ)でもビビる」リメルガは、格言めかして言った。「それでも怖気づくことなく、必要な行動に移れるかどうか……それが生死を決める」
 いかにも古参兵らしい説教じみた物言いに、ぼくは感心しながらも、表面上は反発してみせた。
「ここは戦場じゃない」相手のセリフを、言下に否定する。「戦場だったら、あなたはとっくに、ぼくを殺している。言葉であれこれ言う前にね」
「分かったような口を……」
 どこか不快さをうかがわせる口調のリメルガに、ぼくはたたみかけた。
「見極める、って言ってましたよね。結果は、どうなんです?」
「せっかちな奴だな」
 あんたに言われたくない。いかにも粗暴で短気そうな巨漢を前に、いつしか冷静に考えられる自分に気付いた。
「……分かったことは一つある」
「何ですか?」
 リメルガは、言葉の効果を高めるかのように、ゆっくり言った。「お前のパンチじゃ……人は殺せない」
 そりゃそうだ。ぼくは、ボクシングの訓練なんてしていない。拳が凶器だなんて、とても言えやしない。
 でも……。
 ぼくは、リメルガの屈強な肉体をしげしげと見つめた。
 この男の拳なら、容易に人を殴り殺せるだろう。
「表情が変わったな」リメルガは、こちらの内心を読みとったように鋭く指摘して、拳を振り上げた。「こいつを喰らう覚悟はあるか」
 ごくりと息を飲みこむ。
 ここが正念場だ。そう、思いきる。
「一発は一発。殴った分は、受け止めてみせる!」
 そう言い放って、腹を示す。ノーガードの頭部や、顔面なんかにくらったら、脳震盪を起こして、ダウンするのは必然だ。でも、腹部への衝撃なら備えられる。
 覚悟を決めて、腹筋に力を込めた瞬間、鋼鉄の拳が襲いかかって来た。

 一歩……二歩……、
 三歩、後じさって、ぼくは相手の拳を受け止めた。
 一瞬、膝まづきかけたのを、何とか踏みとどまる。
 朝食がまだだったのは幸いだ。さもなければ、食べた物を吐き戻していたかもしれない。
 たった一発のパンチに、大きく息をあえがせながら、ぼくはリメルガの反応をうかがった。
「耐えたのか?」
「なん……とか……ね……」かすれた声で答える。
「こいつは驚きだ。力を加減していたとは言え、普通は体ごと吹っ飛ばされて、気絶するところだぞ。倒れもせずに踏みこたえる奴は、そうそういない」
 腹の痛みに耐えながら、ぼくは巨漢の言葉に、一つの試練が終わったことを感じていた。よろよろと後退して、後ろのベッドにペタリと腰を下ろす。
「正直……きつかった」必死に言葉をしぼりだす。「どんな……タックル……よりも……ね」少しずつ息を整えようと、努力する。
「タックルだと?」
 相手の問い掛けに、すぐには答えられなかった。左手を顔の前にかざして、少し待ってくれるように身振りで示すと、呼吸が落ち着くのを待つ。
 やがて……。
「鍛えてますから。アメフトで」手短かに、そう口にする。
「アスリートか。その体は」納得したかのように、リメルガはうなずいた。「格闘技の経験は?」
「そんなの、ないですよ。人を攻撃する技なんて、持ってない。専門は守り。ラインバッカーだから」
「守り専門か……」巨漢の戦士は腕組みしながら、しばし考えをめぐらせた。「守るために、戦う。悪くねえ。やたらと攻撃的な奴よりは、マシだ」
「そうですね」今まで黙っていたロイドが、相棒の後ろから口をはさんだ。「リオ様が、リメルガさんのような人じゃなくて良かった」
「どういう意味だ?」キッと、リメルガが後ろを振り返る。
「どういう意味って、『やたらと攻撃的な奴』……って、ほら、すぐにそうやって人を叩こうとする」
「ただのスキンシップだ。お前こそ、いちいち余計なことを口にするんじゃねえ」
 一度、リメルガの拳を受けた以上、ちょっと過激なロイドへの仕打ちは、ちっとも本気じゃないことは分かる。凸凹コンビのふざけ合いにも多少、慣れてきたのかな。最初は、自分のペースを乱されて、イライラしがちだったけど、ずいぶんマシに思えるようになった。
 適度なタイミングを見計らって、ぼくはベッドから立ち上がると、リメルガに問いかけた。
「それで、見極めた結果は?」
「守るためにも力が必要だ」真剣な面持ちのリメルガに、ぼくはうなずいて見せた。
「そうですよ。守るための力こそ、ヒーローのあるべき姿……」熱弁を振るおうとしたロイドを、ぼくとリメルガは無視した。
「リオ。オレは、お前の基礎鍛錬を担当することになった。だが、お前が鍛え甲斐のない野郎だったら、辞退するつもりだった」
「そう。リメルガさんは、肉体の訓練と、基本的な戦闘技術のレクチャーを。そして、ぼくは『愛と勇気と正義の戦士』たる星輝士としての基礎教養と心構えの育成を……」
 なるほど。リメルガの訓練は、きっと役に立つだろう。でも……ロイドの話って、聞く意味があるのか? 
 ぼくは視線で、リメルガに疑問を投げかけた。
 リメルガは軽く肩をすくめて、ロイドを見下ろすと、黙ったまま首を横に振った。その表情からは、「こいつの言うことは、真に受けるな。適当にあしらっておけ」という気持ちがうかがえる。
「あ、何を二人でアイコンタクトを交わし合っているんですか? 拳をぶつけ合うことで、絆が芽生えたとか?」
 そうかもしれない。
 少なくとも、ぼくはリメルガの力量を推し量ることができて、越えるべき一つの目標を見つけたような気になっている。リメルガの方も、多少はこちらに向ける視線が和らいだような気がする。
「あ、それとも、もしかしてあれかな? 男同士の禁断のアレとか?」
 こいつ、一体、何を想像しているんだ?
 リメルガの拳が、ロイドの後頭部をゴツンと一撃した。
 直後に、ぼくも平手で、ロイドの頭をバシッとはたく。
「い、痛いッ!」大げさに頭を押さえて、しゃがみこむ小柄な少年。「リオ様まで、ひどいじゃないですか。二人がかりで合体攻撃を仕掛けてくるなんて。まさか、石破ラブラ……」
「妄想もいい加減にしておけ、犬っころ!」リメルガの声がロイドの言葉をさえぎる。
「……そうでした。せめて究極石破何ちゃら拳にとどめておくべきでした」
 「せめて」も何も、彼の妄想の中身がどう違うのか、ぼくにはちっとも想像できない。「ラブラ」とか「究極」とか、ナードの頭の中ではきちんとつながっているのだろうけど、そこまで追及する気にはなれない。
 教官役としてのリメルガとの接し方は、分かったような気がする。
 でも、ロイドとどう付き合って行ったらいいのかは、まだ見えてこない。
 人間関係をうまくこなすのが、星輝士としての試練だとするなら……それは相当に困難な道程になるだろう。
 でも一つだけ分かったことがある。
 ロイドが星輝士をやっているのなら、ぼくにだって不可能じゃないって。


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●作者余談(2012年1月13日、ネタバレ注意)

 第1部では、アクションがほとんどなかったので、この章では早速、リメルガと殴り合わせてみました。
 まあ、本気でやったら、カートが死んじゃうので、お互いに一発ずつだけ、ですけど。

 それにしても、カートも大胆というか、リメルガに「かかって来い!」と言われた瞬間に、殴りかかる。
 まあ、一応、これは「昨夜の夢の中で、スーザンと殺しあったときの獣性が残っていたから」と、第3部を書いた後なら、自分でも納得できますが。

 そして、リメルガいわく、「お前のパンチじゃ……人は殺せない」
 このセリフは、後にカートが暴走ラーリオスと化した際に、拳で何人も殺していることを示唆しているわけですけどね。本章でのリメルガとの対峙でも、「後に対決することになる両者の関係性」を匂わせています。

 「耐えたのか?」
 「こいつは驚きだ。力を加減していたとは言え、普通は体ごと吹っ飛ばされて、気絶するところだぞ。倒れもせずに踏みこたえる奴は、そうそういない」


 リメルガのこのセリフは、今読み返しても、お気に入り。
 リメルガ自身の強さをアピールするとともに、それに耐えたカートのタフさも端的に描写してるな、と自画自賛(笑)。
 やっぱり、強さを描写するには、「強い奴が感心する」という段取りが必要。
 大勢のザコを倒して、勝ち誇るような描写は、自分的には効果的ではない、と思っております。
 いや、まあ、映像作品なら、「群がるザコ」というのはそれだけで「数の暴力」というのを見せることができますし、主人公のアクションの見せ場ということで「一対多数の無双状態」というのは効果的です。
 ただ、それをそのまま文章で再現しても、アクション描写がよほど上手くないとダメですし、アクションをじっくり書き込めば書き込むほど、読む方のテンポが落ちて、スピーディーさに欠ける危険がある。

 だから、文章での大勢のザコ退治は、いかに省略できるかが自分流。まあ、ザコと戦うシーンに文量を割きたくない、というのもありますね。
 で、アクションの見せ場だったら、それに応じた強敵、せめて対等レベルで互いの攻め手と受け手が交錯し合うような戦いが理想となります。

 そして、ここでのポイントは、圧倒的に強いリメルガの余裕ぶりと、それに正面からぶつかるカートの闘争心、リメルガもふてぶてしいけど、カートも気持ちの上では負けておらず、減らず口を叩きながらも本音の気持ちをぶつける。
 たった一発ずつの拳のぶつかり合いでも、そこから生じる衝撃や、会話でのリアクションなどを描写することで、直接の打撃以上の効果を示せたかな、と思います。
 もちろん、重量級同士のぶつかり合いなので、手数ではなく、重みを描写できるかどうか、なんですが。

 で、リメルガとカートが拳で通じ合った一方で、ロイドがいろいろ混ぜっ返す。
 3人のキャラの関係性が、自分で書いていても、うまくまとまったなあ、とお気に入りの章になっています。

 最後に、ロイドのネタとして、「石破ラブラブ天驚拳」および「究極石破天驚拳」を挙げています。
 一応、解説すると、元ネタは「機動武闘伝Gガンダム」。拳と拳でぶつかり合って友情を築き上げる武闘家たちのドラマなんですけど、主人公ドモン・カッシュの最強奥義が石破天驚拳ですね。
 そして、Gガンダムは最終的に、女性には奥手のドモンが、恋人のレインの心を取り戻すために、愛を叫ぶんですけど、その結果、レインと共にラスボスに放った合体奥義が「石破ラブラブ天驚拳」。で、ロイドは、リメルガとカートの気が合っている様子を、いわゆる「ボーイズラブな関係?」という腐ったジョークでツッコミ入れたのですけど、その後で「究極石破天驚拳」に修正しています。
 この「究極」の方は、アニメではなく、ゲームでの必殺技。アニメでは、ドモンの師匠のマスターアジアは死んでしまったんですけど、「スーパーロボット大戦」シリーズでは、フラグを立てることで師匠を生き残らせ、ドモンといっしょにゲームオリジナルの合体技を仕掛けることもできる。それが「究極石破天驚拳」。つまり、ロイドは、リメルガとカートの関係を、「師弟コンビ」になぞらえたわけですね。

 この辺、元ネタが分かっていれば、ニヤリとできますが、一応、ここでの解説で補完、と。
 一番、大切なのは、ロイドが「Gガンダム」をゲームまで含めて楽しんでいる奴だ、ということですね。言葉として、ゲームマニアと地の文で書くのではなく、セリフの端々に「ゲームをやっている者ならではの言い回し」が出てくるのが、オタクキャラのいい描写だ、と自分では思っております。
 当然、カートはそういう知識がないので、ロイドのセリフに対して「???」なんですけど、ここでもロイドのネタが分かる人間はロイドを楽しめ、分からない人間も「ロイドを訳の分からないことを言う奴だ」と評価するカートに感情移入できる、という計算あり。

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