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プレ・ラーリオス

夜明けのレクイエム(7)


 
7章 ディナー・トーク

 それから、間もなく待望の食事が始まった。
 多少とまどったのは、テーブルの席決めだった。いつものぼくは、真ん中にでんと腰かけるよりも、端っこに寄る方が多い。大きな図体で中央を占領すると、周りの邪魔になってしまうし、そうでなくても、必要以上に注目されるのは苦手だ。
 それでも、今回はテーブルの中央に座る羽目になった。
 まず、ソラークとバァトスの席が最初から決まっている。ソラークが対面の中央で、バァトスは彼の右手、こちらから見て左手の席を占めていた。2人はあいさつのために立ち上がっていたが、ぼくが席を決めれば、すぐに元の席に座り直すだろう。
 ソラークの左手にわざわざ回り込むのも不自然なので、その対面、つまりこちら側の右手に座ろうかと思った。が、その瞬間、すかさずジルファーがそこに歩み寄った。バァトスとの不仲は明らかだったので、できるだけ距離を置きたかったようだ。
 残った席は2つ、中央か左端か。
 左端だと、黒ローブのバァトスの正面になる。真ん中だけが空くのも変なので、結局、ぼくは中央に腰かけることになった。陰気な影に直面するよりは、まぶしくてもソラークの光にさらされる方がいい。こちらに鋭い視線を向けがちなソラークと、まともに見つめ合っていては、食事に集中もできないので、そこはあえて気持ちを切り替えることにした。
 どかりと席に座ると、もう無作法も承知で、自分のお楽しみタイムに突入する。
 ナイフとフォークを握りしめるや、切り取ったステーキにむしゃぶりつき、口をもぐもぐさせた後で、野菜サラダにも手を出す。タンパク質とビタミンの補充が終わると、パンを手にとって、スープの皿に浸し、味付けしてから口に放り込む。それから、果実汁の入ったグラスを一気にあおった
 とても上品とは言えないが、おいしく食べた者が勝ちだ。
 こちらのペースに合わせたのか、他の3人もそれぞれの席に座り、食事を始めた。

「さすがはラーリオス様。豪快な食べっぷりですな」
 しばらくして、そんな感想を口にしたのは、バァトスだった。「その健啖(けんたん)さは、私も見習いたいと存じます」
 見てみると、彼の前の皿はあまり量が減っていない。骨ばった外見のとおり、少食のようだ。それでも陰気なひげ面に、似合わぬ愛想笑いをニヤニヤ張りつけている。
 おべっか使い、という言葉が思いついた。
 あからさまな悪意よりはマシだけど、こちらが何をしても、白々しい感嘆の言葉を浴びせられるのは慣れていない。
 教養のない田舎者らしく、礼儀にかなっていない食べ方をしているのは、自分が一番分かっている。そこを指摘されて、「すみません、田舎者ですから……」と言い訳しながら引け目を感じる方が、ぼくには合っている。
 そう思ったとき、
「まさに田舎者の食べ方だな」右側から、皮肉っぽい声がした。
 ……自分で思っていたとおりのことでも、実際に人から言われてみると、やっぱりムカつく。
「パーサニア殿、不敬ですぞ!」
 そうだ、不敬だ。
「不敬も何も、事実を指摘したまでだ。ラーリオス様には、事実をきちんと受け止める教育をしたい、と考えている。偏った宗教観や、耳当たりのいいだけの甘言に惑わされないような見識をな」
 ぼくとしては、あんたの慇懃無礼な口調を直す教育をしてやりたいよ、ジルファー。
「偏った宗教観とは……ゾディアックの教義に対する冒涜のつもりか!」
 バァトスが、ジルファーの皮肉に対して、怒りを露にする。この神官は基本的に丁寧な口調だが、意外と短気なのが分かった。挑発を受けて、あっさり怒った彼を見て、かえって、こちらのイライラが吹っ飛ぶ。
 冷静に今の状況を考える。
 落ち着いた、実になる議論なら聞いていて勉強にもなるけど、感情むき出しだと子供の口ゲンカと変わりない。おまけに、このまま放っておくと、つまらない宗教の教義論争が延々と続きそうで、せっかくの食事が不味(まず)くなること請け合いだ。
「冒涜? 誰も、そんなことは言っていないさ」ジルファーが得意の長広舌を始めようとした。
 ぼくは正面のソラークを見る。こんな議論を収めるのは、本来、この男の役目ではないだろうか。そう期待してみたんだけど、端正な顔立ちの男は何も言わずに、上品な仕草で食事を続けながら、涼しい顔で二人の会話をじっくり聞く構えに入っている。
 二人の口論は日常茶飯事ってことか?
 それとも、ソラーク自身の性格がこうなのかな? 何があっても動じず、基本的に無口。それでもリーダー役を任されるということは、一度口を開けば発言に重みがある、そんなタイプなのか?
 でも、少しぐらい気を利かせて、動じてくれよ。ぼくは、心の中で悲鳴をあげた。
「……世の中にある宗教は、ゾディアックの星王神信仰だけではない。それとも、神官殿は、ラーリオス様が偽りの信仰に惑わされてもいいと、お考えか?」
「それこそ詭弁家の論じ……」
「二人とも、少し黙ってくれないか」ソラークに期待するのはやめて、イライラと口をはさむことにした。「食べている最中に、左右からわめかれては、ちっとも落ち着けやしない。ジルファーは、ぼくの食べ方にケチをつけるけど、食事の席で宗教論争を始めるのも、マナー違反じゃないか?」
 バァトスが勝ち誇ったように、クククと笑った。まったく、こいつも大人気ない。何と言ってやろうか、考えていると、
「やはり、パーサニア殿は教育係にふさわしくないようですな。ラーリオス様は、どこまで話を聞いておられますか? 我々ゾディアックの大義については、すでにご理解いただけているのでしょうか?」
「い、いや……」逆に問い詰められた感じで、ぼくは言いよどんだ。おまけに、うかつな返答をすると、ゾディアックのよく分からない大義とやらについて、延々と説法をされかねない。ぼくは必死にこの場を言い逃れる言葉をしぼり出した。
「ああ……ジルファーの説明は、決して悪くない……と思う。ただ、ぼくも理解が早い方じゃないから、一度にあれこれ言われても、飲み込むまで時間がかかるんだ。端的にまとめて言ってくれると、助かる。ええと、星輝士が魔法戦士みたいなものだとか……」
「星輝士が魔法戦士?」バァトスの目が天を仰ぐようになった。
「ああ、何て恥知らずな説明だ。聖なる主、星王神から与えられた奇跡の力を、魔法などと卑俗な言葉で冒涜するとは!」
 神官は、ぼくではなく、ジルファーの方に責めるような目を向けた。
 一瞬、ぼくは、この男が何を問題にしているのか、分からなかった。
 でも、急にゲームマニアの兄貴の言葉が脳裏によぎった。
『僧侶魔法(プリースト・マジック)だって? 厳密には、それは間違いだな。僧侶の呪文(プリースト・スペル)は神から与えられた奇跡だから、魔法使い(マジックユーザー)の技である魔法といっしょに考えてはいけない。ルール上も扱いは違っているしな』
 そんなの、どっちでも同じじゃないか? と思ったけれども、こだわる人はこだわるらしい。他にも、
『マスター? 今、やっているのはファンタジーじゃなくて、SFだから、ゲームの進行役兼判定役は、レフリーと言うべきだ』というようなことも言っていたっけ。
 さらには、法律学の先生も、こんなことを言っていたような。
『被告人と被告は混同するなよ。被告は民事用語で、被告人は刑事用語だ。民事訴訟で訴えられた者を、刑事事件の犯人扱いしたら、下手すれば名誉毀損に問われかねない』
 こういう用語のこだわりは、素人にはよく理解できないけど、専門家にとっては重要な違いがあるんだろう。論争しても仕方ない部分なので、適当に受け止めるか、うまく流すに限る。
「ああ、もう、魔法という言い方は間違い」ぼくは、神官がややこしい話を始める前に、急いで訂正した。
「とにかく、神の奇跡や、特殊なすごい力を使える戦士ってことでしょ、バトーザさん?」
「……バトーツァです」神官は訂正しながらも、古代語風の気取った名前で呼ばれたことで、明らかに機嫌を直した。頭でっかちで、一見とっつきにくそうだけど、内面は実に単純で分かりやすい人みたいだ。
「能力面の理解は、おおむね間違っていないようですな。しかし……」講義口調になったバァトスは、次の言葉の効果を高めるように、息継ぎをしてから言った。「精神面の理解はいかがですか?」
「精神面?」何のことやら。
 こちらのいぶかしげな表情を見とった神官は、さも満足したようにうなずいた。まるでジルファーが説明していないことを、自分で説明できることに喜びを感じているみたいだ。
「星輝士とはすなわち、星王神のために戦う『愛』と『勇気』と『正義』の戦士なのです」

 『愛』と『勇気』と『正義』?
 黒ローブの影の神官が口にし、しかも強調した3つの単語が、ぼくを妙に困惑させた。まさか、いかにもダークジェダイって感じの人物の口から、そんな立派な単語が飛び出して来ようとは!
「『愛』と『勇気』と『正義』……」ぼくはつぶやきながら、正面の席の男に目を向けた。
 光り輝く星輝士ソラークは言葉を受けても動ぜず、だまって力強くうなずいた。あ、何だか、この人はそれっぽい。
 次に、右手を見る。
「ん?」ジルファーは、ステーキの切れ端を口にするところだった。
「『愛』と『勇気』と『正義』かあ」もう一度、つぶやくと、それを聞いたジルファーはステーキを喉につまらせたみたいに、咳き込んだ。
「まあ、何事にも例外があるとは思いますが」バァトスの言葉が皮肉っぽく響いた。
「……正直、私はその3つの言葉よりも、大切な物のために戦っている」果汁入りの杯を飲み干して息を整えた後で、ジルファーは何とか弁解するように言った。
「ほう。それは何ですか?」バァトスはさらに追撃する。
「『真実』だよ。曇りない真理の眼で、全ての知識を追求すること。そのために、私は星輝士の道を選んだと言ってもよい」
「真理の探究ですか。なるほど、立派な言葉だと認めましょう。パーサニア殿は戦士である前に、学者でいらしたのですな」バァトスの口調は、心もち穏やかになったようだ。「星輝士ではなく、神官の道を志せば良かったものを」
「いや、神官の道は私の求めるところではない」ジルファーは考え込むように、目を閉じて、かぶりを振った。
「昔、『宗教は阿片である』と指摘した政治哲学者もいたが、信仰だけが絶対の価値観と考え、他を顧みない盲信は中毒同様の破滅をもたらす。それが正しい信仰であろうと、そうでなかろうと」そう言ってから、意味ありげにバァトスの方に目を向ける。
「ゾディアックの信仰が破滅をもたらす、とでも?」神官の口調は、不服げだ。
 ジルファーが解説を続けた。「そういう者が過去にいたのは、歴史的事実だ。星輝士であっても、力におぼれ、それを制御できなければ、世に災いをもたらす。だからこそ、我々星輝士には、力におぼれないための精神性を求められるのではないのかね?」
「それは……その通りですな。だが、星王神のお導きに従うなら、そもそも過ちを犯すことなど……」
「世の中の多くの者が、神のお導きを正しく受け取れるとは限らない」ジルファーは諭すような口調になった。「神官殿のように強い信仰心をお持ちの方には、かえって世俗の者の陥りやすい錯覚に気付かないことがある」
 ジルファーのその言葉が、神官の自尊心をくすぐったようだ。
「つまり、パーサニア殿には、我々神官の見えていないものが見えるとでも?」
「逆もまたしかり、ですが」ジルファーの口調は、いくぶん穏やかになった。「おそらく、神官殿には私の見えていない物も見えているのでしょう。いずれ、詳しく聞かせてもらいたいとも思いますが」
「……ムムッ、確かに我々、影派の秘儀には、並みの星輝士には知り得ない奥義に属する知識も存在しますが、それを外部の者に易々とは……」
 一瞬、ジルファーとバァトスの間に、目に見えない火花が飛び散っているように思えた。何かを隠しているかのような神官と、そこに探りを入れようとしている真実の探求者。
 ええと新聞記者とか、スパイとか? 
 表面上は穏やかな会話の中にも、スパイ映画や、探偵映画のような雰囲気を感じて、ぼくは緊張した。
 こんな局面で、何と言ったらいい?

「我々にとって、真実は一つだと思うが」
 それまで黙って食事を進めながらも、じっくり話を聞いていたソラークが、ようやく口を開いた。
「その真実とは?」ジルファーが興味深そうにたずねた。
「もちろん、ラーリオス様を支え、共に戦うことだ。同じ《太陽》の陣営に属する者同士でいがみ合っていても仕方ない。各人がそれぞれの役割を果たし、余計な対立や不和を持ち込まないことが、勝利につながると私は信じる」
 ソラークの言葉は、その瞳と同様、真っ直ぐで揺るぎない。
 でも、ぼくはこんな立派な男に支えられるほど、価値のある人間なんだろうか?
 そう思ったとき、ぼくはあることに気づいて愕然とした。
 何度も『ラーリオス様』と呼ばれ続けているうちに、いつの間にか、自分がラーリオスだという考えを自然に受け入れるようになっている。
 そもそも、ラーリオスというのが何を意味する名なのか、詳しいことは良く分からないままに、周囲の男たちの会話に流され、乗せられ、彼らの上に君臨する立場として感じ、振る舞うようにもなっている。
 何だか、熟練の俳優が、舞台や映画であてがわれた役柄を自然に演じるみたいに。
「ええと、ラーリオスというのは、『星輝士の盟主として選ばれた存在』……って言っていましたよね?」
 ぼくは気持ちを整理するように、ジルファーにたずねた。
「そうだ」ジルファーは肯定した。「《太陽》の星輝士ラーリオス。《月》の星輝士シンクロシアと対をなす存在だ」
 シンクロシア? その単語ははじめて聞く……いや、ぼくは一度聞いていた。
 ぼくと、スーザンの周りを取り囲むメン・イン・ブラックたちの姿が、不意に甦ってきた。
 彼らは、スーザンに対して呼びかけていたじゃないか。「シンクロシアさま」って。
「ラーリオス様に、シンクロシア様、2人は共に次期星霊皇と呼ばれる立場にございます」メン・イン・ブラックの代わりに、同じ色合いの衣装を身につけたバァトスの声が静かに響いた。
「つまり、ぼくが『太陽の皇子』、シンクロシアが『月の皇女』と考えればいいのかな?」
 芝居の配役の設定を確認するように、ぼくはつぶやいた。
「そう受け取っても、結構ですな」バァトスの肯定の返事は、一瞬、ぼくを心地よくさせた。
 ぼくが皇子で、スーザンが皇女。もちろん、二人の間には血のつながりはない。むしろ、運命に結び付けられたパートナーとして、深く関わり合っている。
 運命の出会い……なんて言葉は、まさにラブロマンス映画向きの設定だ。想像力豊かな女の子だったら、たちどころに恍惚となるんだろうな。
 でも、ぼくは女の子じゃない。ファンタジーの世界よりも、現実をしっかり見据えたい。
「ぼくには無理ですよ」視線を左から右に動かし、バァトス、ソラーク、そしてジルファーの顔を順に、しっかりと見やった。「『愛』と『勇気』と『正義』、あるいは『真実』のために戦う立派な戦士の盟主だなんて、そんな大それた役割が務まるはずもない。人違いに決まっています。せめて……そうですね、マイク・アンダーソンにでも当たってください」
 誰だ、それ? というような表情をジルファーが見せたので、付け加えた。
「うちのフットボールチームのQB(クォーターバック)ですよ。運動神経も良くて、頭脳明晰、女の子にもよくモテる。体の大きさとか以外は、何もかも彼の方が上です。リーダー候補をスカウトするなら、ぼくよりも彼の方がよっぽどお勧めです」
「……マイク・アンダーソン。確かに、君の知人として書類で読んだことはある」ソラークはそう言った。あ、そこまで調べられているわけね。ゾディアックという組織の情報収集力はなかなか侮れないってことか。
「高校生としては、なかなか優秀な男らしいが、我々が求めているのは、プロスポーツの選手ではない」そう言ってから、ソラークは重々しく問いかけてきた。「君は、『愛』と『勇気』と『正義』のために戦う役割が務まらないと言ったが、果たして本当にそうか? 今まで、人生を生きてきて、愛する存在は誰もいなかったのか?」
 その質問に対して、真っ先にスーザンの顔が思い浮かんで、ぼくは赤面した。
「ぼくにだって、愛する人ぐらいいます。家族とか……」
 そこでソラークはうなずいた。スーザンの名前を出すのはさすがに照れ臭かったので、彼が話を引き取ったのは、正直助かった。「それでは、君は愛する者を守るために、勇気を出せるか?」
 スーザンを逃がそうとして、黒服の連中と戦おうとした気持ちが甦ってきた。ぼくはソラークの視線をしっかり受け止めて、強くうなずいて見せた。
 ソラークは最後の質問をした。「君は自分を善良な人間と考えるか? それとも邪悪に与(くみ)する人間だと言うのかね?」
「その質問、おかしくないですか?」ぼくは質問に応えず、問い返した。「自分は邪悪だって言い張る人間が、世の中にそれほどいるのですか? まあ、自分が善人だと言いきる奴も怪しいけど……」
「……少なくとも、信用している仲間を裏切るような奴は邪悪だよ」ソラークの瞳が初めて揺れた。
 過去に何か裏切られた経験でもあるのか?
 そう思ってみたが、すぐに彼の瞳に元の強さが戻ってきた。
「私は、仲間に対する裏切りは決して許さない。愛する者を守るためなら、命を掛けて戦う。それが私の星輝士としての誇りであり、生き様だと言ってもよい」
 ああ、この男は確かに、『愛』と『勇気』と『正義』の戦士の名に恥じることはないのだろう。その真っ直ぐな瞳にさらされると、こちらも負けたくない、という想いが湧き上がってきた。
「ぼくも、愛する人のために戦えます。でも……」ぼくはふと、イヤな予感がした。スーザンを守るために戦う。それってつまり? 
 スーザンを連れ去った黒服たち。
 涙に濡れたスーザンの表情。
 ぼくとスーザンを引き離した連中ゾディアック。
 それらの点がつながったとき、ぼくの結論はこうなった。
「そうすると、ぼくはあなたがた全員と戦うことになるかもしれない」
 思わず、口に出した言葉は、その場に重い沈黙をもたらした。


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●作者余談(2012年1月9日、ネタバレ注意)

 食事の席の続き、です。
 タイトルの「ディナー・トーク」は、ずばり、そのままですが、元々は「テーブルトーク」のつもりでした。
 つまり、「テーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム(TRPG)」のイメージがあって、その名残が、ゲームマニアの兄貴の言葉、として残っています。
 ちなみに、この兄貴は、「若い時の自分がなりたかった夢のキャラ」ということになります。高3の夏に文転する前は、自分は「コンピューターを使いこなす情報工学志望」で、そのまま順調に進んでいれば、システム・エンジニアになっていた……はずですが、現実は「TRPG関係のゲームデザイン&創作家志望→掛け持ちでやっていたアルバイトの延長から塾講師」という現状ですからね。
 あと、バァトスの役者志望とか、そっちも自分の経験の一つでもあります。

 よって、NOVAに近いキャラは誰ですか? と聞かれたら、ロイド、ジルファー及び兄貴、バァトスという形になりますね。
 なお、一番、理解に苦しんでいるのがカレンさんで、その次にカート(オイ)。この二人は、主人公とメインヒロイン格になるのですが、どちらも発展途上であったり、物語の流れに合わせて動かしている部分も大きいので、確固とした性格が完全に定まったわけではなく、いろいろと揺れ動いてしまうキャラなわけです。

 たぶん、自分がカートを完全に理解するときがあるとしたら、それはカートの内面描写ではなく、他のキャラから見たカートの姿を描いたときだと思っています。
 そもそも、カートの外面がどういう姿をしているか、髪の長さとか、普段の目の色とか、傍目にはハンサムなのか醜男なのか、そういう情報も分かっていない。分かっているのは、体が大きくて、スポーツマンらしく筋肉が引き締まっていて、というぐらい。
 後は、第3部の8章「ロストドリーム・アゲイン」で、幽体離脱したカートの視点で少し書いたぐらいだけど、描写はいくぶん曖昧ですね。まあ、見慣れた自分の顔をじっくり描写するというのも、おかしな話なので、「以前よりも変化した部分」(翳りを帯びたり、白髪が目立ったり)に注視して書いたわけですが。

 そんなカートをつかむために描いてきているわけですが、この章では、食事を背景に、ジルファーとバァトスの口論を通じて、ゾディアックに関する見解が内部でもこじれている様子とか、示しています。
 なお、当初のイメージでは、「ジルファーは外部からゾディアックにスカウトされた」「バァトスは元々、ゾディアックのメンバーだった」というつもりで描いていましたが、後にこの設定は変わってしまいましたね。
 結局、「ジルファーの曽祖父もゾディアックのメンバーで、彼のパーサニア家は裏切り者の汚名を背負っている」「バァトスは役者上がりの苦労人」という形になってます。
 そういう視点で、もう一度、読み直して、矛盾があれば直そうかと思いましたが、幸い、目立つ問題点はなし。

 一応、バァトスが、やたらと「自分がゾディアックの敬虔な信仰者であること」をアピールしておりますが、まあ、これは外向きの演技でしょうね。

 他には、ジルファーのキーワードである「真実」が本章で登場しております。
 これは逆に言えば、本作が「真実を覆い隠した虚偽と裏切りの要素を内包している」ことで、一つの伏線でもあります。
 神官殿も自分を隠していますが、ジルファーもカートに何もかも話したわけではない。
 もちろん、物語として、情報を小出しにしていたり、カートが気付いていないことがあったりする構造なので、ミステリー的な「真実探し」の要素は意識しています。

 また、バァトスの口から出た、「星輝士=『愛』と『勇気』と『正義』の戦士」という定義ですが、これは原案者が物語で語った定義をそのまま引用。
 正直、自分で使うには恥ずかしい言葉だと思いましたが、使うからには、物語中で意味を持たせようと思い、カートに「愛と、勇気と、正義」について自問自答してもらいました。
 今さらですが、原案者もこうした「修辞」を使うなら、ただの飾りでなく、その意味合いを物語中でしっかり踏まえて欲しかったな、と考えますね。何せ、「預言者という信仰上、高位な身分の人間が定義した言葉なんだから、さも深い意味合いを内包しているはず」ですし。
 ゾディアックの教典には、きっと「神の言葉による愛、勇気、正義の定義づけ」がしっかり為されているはずで、単なる一般名詞以上の解釈が為されていることでしょう。

一信徒「星王神にとっての愛とは何ですか?」
神官「それは、ためらわないこと、です」
一信徒「では、若さとは?」
神官「振り向かないこと、です」

一信徒「重ねて聞きます。星王神にとっての愛とは?」
神官「強い奴ほど笑顔は優しい。だって、強さは愛だもの」

 こういう特撮パロディでもいいから、何かこだわりが欲しかった。

 あ、自分で書いた時に、いかにも悪役っぽいバァトスの口から、そんな立派な単語が出てくるとは! と思ったけれど、バァトスって、実はそれを実践しているキャラだったりします。
 「このバトーツァ、我が師トロイメライへの愛のために、勇気を胸に、己が信じる正義を貫き通しますぞ!」というセリフが、今だと実に似合うと思います。
 どこかで言わせたいなあ。

 他には、「ソラークが、裏切り行為に対する敵意の激しさを示す」とか、「カートが、愛と言われてスーザンを連想するものの、その名前を話題にすることは避けていること」とか、「スーザンが別れ際に残した言葉=シンクロシアから、いろいろ脳内でつながったり」とか、ラストの衝撃的な「ぼくはあなたがた全員と戦うことになるかもしれない」というハッタリセリフとか、
 『失墜』との関連を考えると、いろいろと伏線を張り巡らせているなあ、と自分に感心(笑)。
 ただし、「ラーリオスとシンクロシアが戦う宿命にある」という根幹設定が、カートに伝えられていないというのが、最大のポイントだと思っております。いわゆる「伏せられた真実」という奴で、それが伝えられるのは、カートが成長した第3部に入ってから。ずいぶん、長く伏せられていたものです。

 最後に、ここで名前の出ている「カートのフットボールチームのQBマイク・アンダーソン」 これを書いたときは、どこかで使えればいいかなあ、ぐらいに考えていましたが、これも使う機会なし。
 雄輝編が続いていれば、星輝士の一人として登場させるお遊びにもできたかも。

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