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プレ・ラーリオス

夜明けのレクイエム(8)


 
8章 リーズン・フォー・バトル

 爆弾発言を口にしたことで、のどがからからになった。
 ボトルから果実汁をつぐ音、そしてグラスをあおる音が、静寂の中で響く。
 のどを湿らせたあとで、何か言おうと口を開きかけたとき、思わぬ笑い声が上がった。
 ジルファーだった。
「これは傑作だ」氷使いは、これ見よがしに腹を抱えて笑っていた。「ラーリオス様の正義の眼には、我々こそが戦うべき悪に映っているらしい」そう言いながら、意味ありげにバァトスに目を向ける。「ま、誰のせいかは予想がつくがね」
「失敬な」バァトスがぼそりと軽い怒りを示した。自分が、悪役っぽく見えることは自覚しているらしい。
「だが、少なくとも『勇気』は証明されたわけだ」とソラーク。「臆病者には、その場の全員を敵に回すような発言は、口にできない」
「大胆というか、無謀というか、自殺行為にも思える彼の『勇気』と行動力は私が保証するさ」とジルファー。
「それこそ、王者の資質なのでしょう」と、いくぶん気を取り直して、バァトスが言った。
 でも、その白々しい称賛の言葉の数々は、一度は静まった怒りの熱気を再び高ぶらせるだけだった。
「とにかく!」ぼくは、火のついた勢いに乗せて、気持ちをぶちまけることにした。「あなたがたは、もっともらしく『愛』や『正義』を口にするが、やっていることは何です? 人の意に反して、こんなところに拉致してきて、勝手な理屈を振りかざす。誰が、神秘の力を授けてくれって頼んだんです? ぼくの望むのは、平和でささやかな日常なんだ。『選ばれた存在』なんて、真っ平ごめんだ!」
 一気にまくし立てて、ぼくは息をハアハアとあえがせた。もう一度、グラスに果実汁をついで、ゴクゴク飲み干す。
「……道理だな」ジルファーが相変わらず冷静だが、いくらか真剣みを増した口調で言った。「自分を拉致した組織に、最初から好意を持つ者などいない。やはり、神官殿の計画は強引で、少し無理があったのではないか? もう少し、受け入れやすいように事情を話してから、丁重にご招待しても良かったのでは?」
「しかし、組織の秘密を守るには、あまり外で何もかもベラベラ喋るわけには……」バァトスが言い訳がましく口にした。
 なるほど、悪いのはやっぱり、こいつってことか。
「つまり、さらってきて、逃げられないようにしてから、いやでも、あなた達の要求を受け入れさせようってことだ」ぼくは、ジルファーを真似た冷ややかな視線で、バァトスを見た。
 神官の黒ローブ姿は、心もち、小さく縮んだように見える。ぼくににらまれて、何も言い返せないようだ。

「……神官殿を責めても、何の解決にもならない」ソラークが場を取り仕切るように、口をはさんできた。
「単刀直入に言おう。我らの望みは、君がラーリオスとして試練に挑み、打ち勝つことだ。そのために、相応の代価も支払ってきた。君の望みは何かね?」
 その口調は、優秀なビジネスマンを思わせた。ギブ・アンド・テイクの関係を重視し、互いの利益を最大限に引き出しながら、妥協点を見出そうとする交渉の達人。
「……家に帰してください」ぼくには、交渉を有利にするための駆け引きのテクニックはない。ただ、望みを聞かれたので、そのまま思うことを答えただけだった。もちろん、スーザンに会わせて欲しい、なんて望みは恥ずかしくて、とても口には出せない。
「帰れるさ。試練を果たせばな」
 それは意外な回答だった。てっきり、ラーリオスになれば、自分のそれまでの日常から完全に切り離されて、永遠に戦い続ける宿命を背負わされるのだと思っていた。
「帰れるんですか? だったら、さっさと試練でも何でも、済ませてしまいましょう」ぼくは勢い込んで、そう言った。
「おいおい。そんなにあっさり安請け合いするなよ」と、ジルファーが横から口を出す。「星輝士になるための訓練は、簡単じゃない。時間も掛かるんだ。もっと慎重に考えて、だな」
「……考えたところで、結果は同じでしょ?」ぼくは、彼に目をやった。「あなた達は、ぼくをラーリオスにさせたい。そして、ラーリオスになれば、ぼくは家に帰れる。ラーリオスにならないと、あなた達はきっと、ぼくを帰さないつもりだ。なら、さっさと受け入れてしまった方が早い。違いますか?」
「……星輝士の力を信じるのを、あれだけ拒んだ人間の言葉とは思えないな」ジルファーは、呆れたように肩をすくめてみせた。「信じるまでには、時間が掛かるが、行動に移るのは早いということか」
 その通りだ。ぼくは現実的な人間だから、しないといけないことが分かれば、余計な文句は言わずに、さっさと済ませてしまいたい。エンジンの掛かりは悪いが、一度、行動方針が見えれば、後は走り出すだけだ。
 でも、一つ気がかりな点がある。
「家に連絡はできないのですか? ぼくがいなくなって、家族は心配しているでしょ?」
 ゾディアックのメンバーが良心的なら、これぐらいのささやかな願いは聞き届けてくれるはずだ。逆に、そうでないなら、彼らの言葉はやはり信用できない。
 そして……、
「その必要はない」そう答えたソラークの言葉に、ぼくは警戒心を呼び戻した。結局、人を拉致して、家に連絡もさせないということは、本当に帰すつもりがあるかどうかも怪しいもんだ。
「ご家族はすでに納得しているよ」ソラークは、こちらの疑念を晴らすように説明を続けた。「君は、ZOAコーポの特別研修に参加している。少なくとも、書類上はそういうことになっていて、学校にも届出がされている。もちろん、ご両親の許可の上で、だ」
「そんなバカな」ぼくは呆然とつぶやいた。「ぼくは、何も聞かされていない」
「……そうみたいだな」ソラークは納得したみたいに、うなずいた。「ご両親がもう少し、君に事情を説明していれば、君も心の準備というものができていたろうが……」
「心の準備って……」ゾディアックという組織に、両親が何かの関わりを持っていたとは思いもしなかった。知らないことが多すぎる。「もしかして、うちの両親もゾディアックのメンバーだったとか?」
「それは違う」ソラークは淡々と説明した。「君のご家族はゾディアックのことを何も知らない。神官殿の言うとおり、一般人には組織の秘密は守らないといけないからな。我々はあくまで、表の顔である企業体ZOAコーポとして接してきた。君の兄上は、昨年、我が社に入社している。まちがいないな?」
「ええ」ぼくはうなずいた。何も知らなければ、正しい判断もできない。ゾディアックの教義とかはどうでもいいが、家族のことになれば話は別だ。知るべき情報はきちんと受け止めておきたい。
「確かに彼は、優秀なコンピュータ・エンジニアだが、我が社が採用したのは、それだけではない。君という存在があったからこそだ」
 その言葉は、ぼくの自尊心をくすぐった。優秀な兄と、パッとしないぼく。家族の見る目はもっぱらそうだったが、実は自分を評価している者がいる。そう思うと、救われる気分だ。
「……それもこれも、ぼくがラーリオスだからこそ、ですね」
 ソラークはうなずいた。「ラーリオスというのは、重い責任だ。しかし、君にはそれを受け止める力と才能がある、と信じている。そして……」鋭い目線の男は息をついでから、決然と言った。「我々は、君一人に犠牲を強いるようなことはしない。全力でサポートすることを約束する」
「……期待外れに終わるかもしれませんよ」
 何で、こうも卑屈になるんだ? と自分でも思う。「任せてください」の一言が言えないのか? 
「……君は、十分、期待以上のことをしているよ」と、横からジルファーの声がした。「ソラークを相手に、物怖じせずに正面から堂々と受け応えできる人間は、なかなかいない」
 そうだろうか?
「普通は、あっさり説得されるか、何も言いたいことが言えずに黙り込むか、のどちらかだ」ジルファーの説明に、ぼくは納得した。
 ソラークの視線の鋭さは、言葉以上の説得力をもって迫ってくる。負けたくないという微かな自尊心、それから真実を知りたいという好奇心がなければ、ジルファーの言う『どちらか』になっていたことだろう。
 でも……『物怖じせずに』は買いかぶりすぎだ。
「ええと……」ぼくは、物怖じを意識しながら、必死で次の言葉を紡ぎ出した。ソラークの言葉からキーワードを探し出す。「さっき、『相応の代価』って言いましたよね。ぼくは、あなたたちに何かの負債を背負っているのですか? 兄の就職の話はさておき」
「……あまり、こういう話で君を縛りたくはないが」前置きをしてから、ソラークは言った。「君の父上は、7年前に不況の影響で、経済苦に立たされている。その際に、ZOAコーポが相応の援助を約束したという話だ。我々は、ご家族の生活費や、君たちの学費など必要に応じて援助してきた。代わりに、ご両親には、君を将来のZOAコーポの一員になれるぐらい優秀な人間として育てるよう、やんわりと契約義務が課されたことになっている」
「何てことだ」ぼくは、思わずうめいた。7年前から、ぼくの人生にはゾディアックが関わってきたのか。ぼくが何も知らないままに。
「そんな大切なこと、どうして親は何も言わなかったんだ!」自分の気持ちをぶちまけてしまう。
 ぼくの知る限り、親は経済苦の話なんて、一言も口にしなかった。兄貴は知っていたんだろうか? 当然、知っていただろうな。自称「情報の達人」だ。
 父さんも、母さんも、「兄貴みたいになれ」と言ってきた。それもこれも、ぼくの将来を「ZOAコーポの社員」と見込んでのことか。ZOAコーポの裏側、神秘的な力を持った魔法戦士やらを擁する秘密組織のことを何も知らないままに……。
 全ては、ぼくの意志とは関係のないところで、組織の手の平の上でうまく仕込まれていた。ぼくは、その事実に愕然(がくぜん)とうなだれるしかなかった。

 少しの沈黙の後。
「おい、ソラーク」ジルファーの声がした。「少し事務的に話を進め過ぎじゃないか? さすがに彼も、事実を受け止めきれていないようだぞ」
「そのようですな」バァトスの陰気な声。「真実を求めるのは結構。しかし、それを受け止める構えのできていない者には、重すぎる情報もあるのです」
「くっ、確かにな」バァトスの言葉に、珍しくジルファーが動揺しているのが分かった。「真実は大切だが、性急すぎては伝わるものも伝えられない。少し、時を置かないと……」
「どうしてだ?」ソラークの口調は、感情をともなわず、ジルファー以上に冷ややかに聞こえた。「我々には、十分な時間があるとは言えない。伝えるべきは早く伝えて、一刻も早く星輝士の修行を始めないと、試練を乗り越えることはできない。余計な感傷にとらわれまいと思えば、事務的に対処するべきだ」
「……イカロス殿は、スパルタ教育を望まれているのですか?」バァトスがささやいた。
「当然だ。甘やかした修行では、いい星輝士にはなれない」
「しかし、強制的な修行でも、教育効果は発揮できないぞ。ある程度は、教える側と教わる側の信頼関係を構築してからでないと」
「パーサニア殿は、立派な教育者なのですな」ジルファーに応じるバァトスの言葉が、どこか皮肉げに聞こえた。「教え子の気持ちを十分考えに入れている。しかし……必ずしも効率はよろしくないようだ」
「人間は機械じゃない。意志があるんだ」ジルファーが重々しくつぶやいた。
 何だか、ぼくの気持ちはそっちのけで教育論に話が展開しそうなのが、聞いていてたまらなかった。
「そうです。ぼくには意志がある」乾ききった声で、ぼくは言葉を発した。「ぼくの家族は、こちらの意志には関係なく、あなた方に息子を売ったんですね。ぼくは奴隷みたいなものだ」
「それは違うぞ」とジルファー。
「何が違うと言うんです? ぼくは、親に何も知らされず、ここに放り込まれたんですよ!」
「……おそらく」ジルファーが持ち前の冷静さを取り戻して、推測した。「君のご両親は、親として君に弱みを見せたくなかった。あるいは、まだ子供の君に余計な心配をかけないようにしたかったのではないか」
 そうかもしれない。でも、ぼくには判断できなかった。
 さっきまでは、家に帰ることが大きな望みだった。しかし、自分を売った家族のもとに、どういう顔をして帰ったらいい? 真実を知った以上、元どおりの生活に今さら、戻れるものなのか?
 一体、ぼくは何を望みにしたらいい? 

「何か、深刻な話題になっているみたいね」
 うなだれているぼくの耳に、女の人の声が聞こえてきた。顔を上げたぼくは、目にした金髪と青い瞳に一瞬、スーザンの面影を見てとり、すぐにカレンさんだと認識した。
「思春期の少年の、ちょっとしたホームシックみたいなものさ」と、ジルファーが説明する。
「そう」緑のラインの付いた白ローブ姿のカレンさんはつぶやいて、ぼくの方をじっと見た。「失礼なことを言ったのは、皮肉屋の氷屋さんかしら、それとも朴念仁の兄? あるいは……」ジルファーからソラーク、そしてバァトスの方に、すっと視線を流してみせる。「陰気な神官かもしれないわね。みんな、気が利かない人たちなんだから」
 指摘された男たちは、それぞれ咳払いしたり、視線を泳がせたり、顔をしかめたりして、不快の念を表明した。
 カレンさんの毒舌は初めて聞いたので、少し意外だった。ぼくに対しては、従順な侍女のように振る舞っていたけれど、こういう一面も持っていたんだ。
「い、いや、いっぺんにいろいろ教えてもらったから、整理しきれずに、頭がぼうっとなってしまって……」
 だから、心配しなくていい、とまで言おうとしたけど、
「そう」とカレンさんは、あっさり受け流して、話を引き取った。「あまり、食事の席で重い話をするものじゃないわね。せっかく作った料理が味わえないでしょ?」
「せっかく作った料理?」その言葉にジルファーが反応した。
「正確には、『料理人たちに指示して、作らせた料理』と言うべきだったかしら?」カレンさんの口調が冷ややかな響きを帯びた。「私の作ったものは、あなたの口には合わないみたいですからね」
「君の味付けは、甘すぎるんだ」ジルファーが遠慮なく批評した。
「兄は文句を言わないわ」
「……もう慣れたからな」ソラークが言いにくそうにつぶやいた。
「ラーリオス様はどうかしら? さっきのスープですけど……」
 今さら、その話を、こちらに振りますか。
「ええと、慣れるまで時間がかかるかも……」もっと気の利いた答えが返せないのが、我ながら腹立たしい。
「伝えるべきは早く伝えた方がいいぞ」ジルファーが、ソラークの言葉を流用しながら、こっそりささやいた。
 ぼくは、相手にしなかった。美しい女性に面と向かって、あなたの料理は美味しくない、なんて言えるわけがない。
「分かりました。次はもう少し、味付けを考えます」こちらの言葉の意味をさらりと引き取ってから、彼女は兄のソラークに顔を向けた。
「料理人たちは休ませたわ。明日の朝食の仕込みまで済ませてからね」そう報告してから、兄の左、ジルファーの正面の席に腰を下ろす。
「うむ、ご苦労」ソラークは慇懃に応じていたが、その表情は心もち精悍さが薄れ、穏やかになったように思う。
 女性の合流で、ギスギスした空気も若干和らいだようだった。自分も含めて、男というのは単純だ。美人が場にいるだけで、場の重さが払拭されるのだから。
「それで、ラーリオス様は星輝士の修行を受け入れる気になったのかしら?」
 重い話はするものじゃない、と自分で言っておきながら、そう問いかけてくる彼女だが、ぼくにも受け止める余裕は戻ってきていた。
「他に選択の余地はなさそうですからね」意を決してそう答える。「ただ、星輝士として何のために戦うか、それがまだ見えていません。ぼくにはあなたたちの信仰がよく分からないし、家族のため、と思っていたけど、それもよく分からなくなった」
「それでも、あなたには守るべき家族がいます」意味ありげな視線を、彼女は向けてくる。「それは、とても大切なことよ」
「ええと……」ぼくは、ソラークに視線をやった。
 それに合わせて、彼女も隣の兄に視線を送る。生真面目な背広の星輝士も、微笑を浮かべて応じる。それだけで、この兄妹の間にある絆が感じ取れた。ぼくと兄貴のような男兄弟には、たぶん生まれ得ない親愛の雰囲気。
「私の戦う理由も、第一に家族だ」ソラークが断言した。「失った家族の中で、残された唯一の妹。そして今は、ゾディアックが新たな家族だと思っている。ここには、かつて失ったものがあると信じている」
 そう思えるソラークが、何だか羨ましかった。家族はぼくをゾディアックに売った。そのゾディアックで、ぼくは満たされない気持ちを満たせるだろうか? 
 選ばれた者としての自尊心?
 想い人からの親愛の情?
 本当の家族から得られる以上の安らかさと信頼?
 それらを勝ち得るために、力が必要だとしたら、ぼくは迷わず、試練に挑むことだろう。
 満たされない想いを満たしたい。何だか抽象的だけど、それが自分の戦う理由だった。
「星輝士の修行を、ぼくは受け入れます!」
 ソラークとカレン、2人の期待に満ちた、強い視線をしっかり受け止めながら、ぼくは決然と誓いを立てた。
 金髪碧眼(へきがん)の兄妹は、端正な顔立ちに微笑を浮かべてみせた。


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●作者余談(2012年1月9日、ネタバレ注意)

 食事の席のさらなる続き、です。
 タイトルの「リーズン・フォー・バトル」は、第3部の「リーズン・トゥ・リーチ」の原型になりますね。
 この時点では、そこまで重要なキーワードにするつもりはなかったですけど。

 まだ、家に帰りたがっているカートの未練を断ち切るために、家族の話を出した後、
 ゾディアックを新たな家族と見なし、妹カレンのために戦うと言い切るソラークを描き、
 カートに決断を促しています。

 「ここには、かつて失ったものがあると信じている」と宣言するソラーク。
 「失ったもの」とか、「満たされない想いを満たす」とか、「愛」とか、カートにとっても大切なキーワードがいろいろと出てきて、ばっちり伏線を張っております。

 そして、この時点でのカートの愛は、スーザンに向けられていたんですけど、
 第3部のラストで、その方向がカレンに向けられるに至って、崩壊の序曲が奏でられる、と。
 「スーザンへの気持ちが、カレンに切り替わる流れ」は、この章を書いた時点で意図しておりました。

 ただ、カレンの気持ち、というのが、自分の中でもはっきりしなくて、いろいろああでもない、こうでもない、とひねくり返していた記憶があります。
 基本的に、カレンは「兄のソラークに禁断の愛を抱いている」という裏設定は、この時点でありました。
 そして、「兄と結ばれたいために、影の者と結託」という構想も、何となく考えていましたが、そこまで彼女を悪女として描くのか、迷いはありまして。

 ラーリオスの暴走の原因として、「スーザンと戦うことを強制される」という背景がありますが、それだけだと理由付けとしても弱いなあ、と感じながら、話を進めていき、いろいろ理由付けを補強していったのですが、
 掲示板で、「カレンさんがカートの滅びの原因になる」的な意見(原文引用すると、「まごうことなき癒し手なんですが、それと同時に(そして矛盾せず)致命的なストレッサーにもなりうる要素があるのでは」)に感化されて、カレンの闇化の脳内イメージを具体化させることを決定。
 で、カートの闇堕ち→暴走の原因の一つに、カレン絡みを設定すると、話が非常にうまく収まる、と。

 あと、最終的に殺されるカレンですが、「何の罪もない女を殺す」というのは、自分の感性的に非常に辛いんですね。「失墜」の場合だと、記号としての死であり、あくまでソラークやランツが戦う動機でしかなく、カレンの心情もほとんど描いていなかったわけですが、「レクイエム」の場合はそうではない。
 カレンのことはしっかり描きたい。だけど、理不尽な死は描きたくない。そういう矛盾を昇華するために、「カレンのことをしっかり描き、かつ、理不尽でなく、故あっての死として描く」という方針に。
 もちろん、この「故あって」というのは、「因果応報、カレンの死は彼女の罪の結果」という形になるわけですが、それは同時に、「カレンを殺すカートにも罪の重さはある」わけだし、自分の中ではカレンとカートが一蓮托生として描き、死ぬときも一緒に、と示すことが、レクイエムの一つの帰結かと考えている次第。

 もちろん、だったら、スーザンをどうするのか? という話にもなりますが、自分の中では、スーザンには未来もあるし、立派にフォローもできる、という気持ちもあります。
 それに、レクイエム内で、カートがスーザンに贖罪するシーンも考えているわけで、何とか昇華できる。

 ……と、まあ、第4部に向けてカレンさん絡みで思うことはいろいろあるのですけど、
 ここでは、分かりにくいと言われるカレンさんの心理分類について最後に。

 実は、リメルガに近い「内向的感情→内向的感覚タイプ」です。
 後者が外向的に変われば、ハードボイルド的なヒロインになるはず、なんですね。
 リメルガの評では、「基本的に無口で、外向的ではないのですが、他人の気持ちには敏感で情に厚い奴です。ただ、外部に対しては観察力を持ち合わせ、さらに快不快の刺激や、状況の変化に反応する感性で積極的に行動できるキャラ」ということですが、
 カレンの場合も、「基本的に無口で、外向的ではない」「他人の気持ちには敏感で、情が深い」という点で、内向的感情タイプの特性を持っています。ただし、リメルガと違って外向的な面は、いろいろと隠しごとをしないといけないために、ずいぶんと抑圧されています。
 ソラークが現実を見据える「外向的感覚タイプ」なんですけど、カレンは現実から受け取った刺激を自分の内面で再構築する「内向的感覚タイプ」。だから、表に出さない独特な視点で世界を見ている。なお、この部分は、カートとも通じる部分があります。
 そして、もしもカレンが隠しごとをせずに自分をさらけ出すようになったら、「外向的感覚タイプ」に転化すると。こうなると、刹那的に享楽を楽しむ危険性が出てくるんですけどね。ソラークの場合は基本が思考型なので、自分を律することができるんですけど、カレンの場合は好き嫌いで判断する感情型なので、一度、恋心を解放してしまえば、後は言わずもがな、と。

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